秋の特別公開 in 上野

 2013/09/20(Fri)
 9/18(水)から、東京国立博物館の「秋の特別公開」が始まりました。

 今回は短期間ながら酒井抱一作「夏秋草図屏風」が3年ぶりでお目見え、ポスターでも主役扱いなのが嬉しいです。しかもちょうどその日は偶然にも休暇にあたっていたので、これは天の配剤とばかり喜び勇んで行ってきました。


秋の特別公開・夏秋草図屏風
本館7室にて。


 今回は展示場所も本館の2階7室(正面玄関から向かって左奥)で、御覧の通り壁面ひとつを丸ごと占領しての堂々たる特別待遇です。夕方4時頃に着いた時は結構たくさんの人が熱心に見ていたので、結局5時の閉館ぎりぎりまで粘ってこの写真を撮るのに成功しました。ほんのちょっとの間ですが、一人占め気分を堪能できて幸せでした。ふふ。

 とはいえ今回もやっぱり、本来の裏屏風としての展示形式でなかったのはいささか残念で、また心なしかいつもよりも照明を抑えていたようにも感じました。それでも渋い銀屏風に描かれた草花の嫋々とした風情は何とも美しく、いつまで見ていても見飽きない大好きな作品です。昨夜の見事な十五夜の満月のように、この儚げな草花を照らすのもきっと澄んだ美しい月光なのでしょうね。

 ところでこの「夏秋草図」は右隻と左隻でそれぞれ夏草と秋草を描いていて、真ん中で接している草が微妙に繋がっているようで繋がっていません。また描かれている草花も、薄以外に共通するものは殆ど見当たらず、同じ場所の違う季節を描いたものとも、あるいはそれぞれまったく別の場所とも取れます。同じく展示中の「四季花鳥図巻」は春夏秋冬の移り変わりを綺麗に一繋がりで描いていますが、この「夏秋草図」の世界も同じどこかの野原の情景の時間の経過を描いたものなんでしょうか?


夏秋草図屏風(2013)
正面からアップでもう一枚。

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東博人気投票

 2013/09/03(Tue)
 現在東京国立博物館公式サイトにて、酒井抱一の人気投票を開催中です。
ただ今本館2階にて展示している「四季花鳥図巻(下巻)」に関するもので、絵巻の8つの場面の中で一番好きなのはどれですか?というものなんですね。千尋もちょっと悩みましたが、結局絵巻冒頭の「萩と月、鈴虫と松虫、小禽」に一票入れました。まだ始まったばかりのようですが、最終的にどのくらい投票されるか楽しみです。

・「東京国立博物館 投票・アンケート

四季花鳥図絵巻
今回は投票対象外の部分(アオキ?)。金の葉脈が綺麗です。


 ところで先日もちらっと話題にした「夏秋草図屏風」の公開ですが、現在博物館内でも大々的に宣伝中です。今回は秋の特別公開ということで、左隻の秋草の部分が立派なポスターになっており、9/1に特別展「和様の書」を見に行った時発見して驚きました。


秋の特別公開
とても大きかったです。1枚欲しい!(笑)


 なおさらにもうひとつ、来年春に開催予定の「建仁寺展」(栄西禅師開創800年記念)にて、久々に俵屋宗達の本家本元「風神雷神図屏風」が出展するそうです! 東博にお目見えするのは確か大琳派展以来ですから、約6年ぶりですね。千尋も宗達の風神雷神は何度も見ていますが、やはり何度見ても飽きない傑作ですので、こちらも今から楽しみです。

 参考リンク:特別展覧会「京都最古の禅寺 建仁寺」 栄西禅師開創800年記念

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秋は酒井抱一!

 2013/07/28(Sun)
 この秋久方ぶりに、酒井抱一作「夏秋草図屏風」が東京国立博物館の本館常設展示に登場します!

夏秋草図1


 今回は秋の特別公開ということで、9月18日(水)から29日(日)までとやや期間は短いながら、同時期に「四季花鳥図絵巻」も合せて見ることができます。(※「四季花鳥図」の展示期間は8/20-9/29) 東京国立博物館ニュース8・9月号でも大々的に取り上げていますので、抱一ファンの皆様はぜひお見逃しなく!!

 …それにしても、今回はわずか二週間足らずと本当に短期間ですが、思えば夏から秋にかけてのこの時期にこの屏風を見た記憶はあまりないような気がします。一昨年の千葉での酒井抱一展はもう晩秋に近い頃でしたし、その前の2010年はちょうど今頃の夏真っ盛りで、「美の巨人たち」でも「暑中見舞い代り」なんて言われてたのですよね。
 なお今回の展示はちょうどお彼岸の時期で、しかも9月19日(木)は旧暦の八月十五日、つまり中秋の名月です。ただ特別展の期間からは外れてしまったため、今回金曜日の夜間開館はないのですよね。もし20日が20:00まで開館だったら、閉館ぎりぎりまで鑑賞した後で帰り道は十六夜月を楽しみつつ上野駅までそぞろ歩き…なんていう風流な楽しみもあったのになあ、とちょっと残念です。


追記:
 問題の東博ニュースを眺めつつ、今回は裏屏風の置き方で展示してくれるといいなあ、と考えていたら、ふといいことを思いつきました。

夏秋草図(東博ニュース)


 というわけで、画集のページは恐ろしくてさすがに折れませんが、東博ニュースなら綺麗な印刷で大変お手軽に本来の姿の「夏秋草図屏風」を再現できます。これから東博へ行く機会のある方は、ぜひ東博ニュースをもらってきて試してみてくださいね。

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金の月夜、幻の銀屏 夏目漱石の美術世界展

 2013/07/08(Mon)
 7月6日(土)、会期ぎりぎりでようやく「夏目漱石の美術世界展」(東京藝術大学美術館、2013/5/21-7/7)へ行ってきました。

 既に触れたように、今回は酒井抱一の幻の作品とも言える「月に秋草図屏風」が久々にお目見えというだけに、抱一追っかけとしては是非とも行かねばなりません。しかしこの大本命はラスト2週間のみの出展というので、それではのんびり待っていようと思っていたら、6/2放送の日曜美術館でびっくり仰天しました。
 漱石と抱一と言えば真っ先に連想する例の『虞美人草』に登場する銀屏風、あれは恐らく漱石が創作した架空の作品と思われるのでさすがに出せないだろうと思っていたら、何と芸大の先生が「こんな感じだったかもしれない」屏風をわざわざ描いたというのです(!)。そう来ますか!?と驚愕、いやー随分と大胆な思い切った企画に出たものですが、さすが芸大ならではの離れ業?ですね。

 さて、その問題の「虞美人草図屏風」ですが、実際に見た印象は正直言ってちょっと違うかなあ?という感じでした。
 確かに「方六尺の銀屏」ではありますし、また虞美人草の描写も「四季花鳥図巻」を思わせるものではあるのですが、全体の構図は抱一さんだったらああはしないのではないかしら、と思うのです。大体抱一さんは「く」の字型とかV字型とかの非線対称な構図を好む人ですし、余白の面積はともかくああいうトリミングの仕方は何だか違和感があるのですよ。それに「柔婉なる茎を乱るるばかりに」「会釈もなく緑青を使って」という描写は、青邨の「罌粟」ほどではないにせよ、もっとたくさんの花を描いたイメージだったのではないかと感じました。
 ちなみに会場には漱石が所蔵していたという図録も展示されていて、その中にかの「夏秋草図屏風」の写真もあったので、漱石はほぼ間違いなくあの絵を知っていたはずです。同じ銀屏風でも「波図屏風」や「紅白梅図屏風」は知らなかったかもしれませんが、そうだとしたらなおさら「抱一の銀屏風」で「夏秋草図」を連想しなかったとは思えません。そしてその銀地が「亡き人を追慕する」月光を象徴する色であることを、漱石は知っていたのでしょうか。

「すべてが美くしい。美くしいもののなかに横(よこた)わる人の顔も美くしい。驕る眼は長(とこしな)えに閉じた。驕る眼を眠った藤尾の眉は、額は、黒髪は、天女のごとく美くしい。」

 漱石は死の床に冷たく横たわるヒロインを、このように描いています。その枕元に立てられた、銀地とは言え艶やかな赤や紫に咲く虞美人草(ひなげし)と鮮やかな緑青の葉を描いた屏風を、漱石はどのように思い描いていたのでしょう。文章から受けるイメージが何とも濃艶な印象だけに、今回の「推定試作」を前に改めてつくづくと考え込みました。
 なおこの銀屏風、原作の通りに逆さに置いたりはしないのかなと思っていたら、一日限定で本当にそれもやったそうですね。(笑) 知らずに見逃してしまったのはちょっと残念でしたが、やっぱりそれも考えたんだなと思ったらちょっとおかしく、またスタッフの皆様の熱意とこだわりを感じて嬉しかったです。

 ところでそういえば、今回この「虞美人草図」は銀の黒変を考慮して、花の部分の銀箔を切り取って描いたそうです。しかし抱一さんの銀屏風って、「夏秋草図」「紅白梅図」「波図」の三点いずれも、黒変というほどの極端な焼けは見られないのですよね(特に、一番早いはずの「波図屏風」の銀の美しさは感動的です)。
 ちょうど同時期に江戸東京博物館で開催中のファインバーグ・コレクション展で、其一の息子(つまり抱一の孫弟子)守一の銀屏風は無残に焼けて黒くなってしまっていましたが、あれは抱一さんやっぱり何か彼だけの特殊な処理をしていたのではないかと思うのです。以前宗達が描いた謡本でも綺麗な銀色を残しているものを見たことがありますが、閉じておけば空気に触れず硫化を防げる本とは違って、屏風(それも「夏秋草図」と「紅白梅図」は裏屏風です)はどんなに大事に保管しても限度があったでしょうし、事実弟子の其一や池田孤邨の銀屏風もやっぱり黒くなってるんですから。


 一方、久々にご対面の「月に秋草図屏風」についても、改めてじっくりと見てまた新しい発見がありました。
 今まであまり意識したことがなかったのですが、この「月に秋草図」、色んな意味で「夏秋草図」とは対照的な作品です。「夏秋草図」はクールな銀地ながら彩色は非常に鮮やかな作品ですが、「月に秋草図」は画面を大きく占める葛の葉と茎の大部分が渋い墨で描かれていて、金地でありながら非常にシックな印象です。よく見るとその墨の茎のところどころから緑青で描いた葉が伸びているのですが、葛の根元に咲く花で最も目立つのは青い桔梗で、赤系の色は葛の花の淡い桃色以外にありません。「夏秋草図」ではススキと葛がどちらも鮮やかな緑青でくっきりと描かれ、さらに白い百合と紅い蔦紅葉のコントラストが一層それを際立たせているだけに、逆にこちらの方が普通の銀屏風のような渋さだなと思いました。

 それにしても、金屏風に銀の月、というのは宗達やさらに古い作品にもよくありますが、大抵はアーモンド型の半月が多く、ああいう真ん丸な月はあまり見たことがない気がします(いわゆる「武蔵野図」の月は丸いですが、あのごろんと転がった巨大な月もある意味凄い。笑)。抱一さんの作品でも、山種所蔵の「月に秋草鶉図屏風」は黒い月ですし、そもそも抱一さんの場合、掛け軸はともかく屏風で「月」をはっきり描いた作品自体、意外なようですが珍しいですよね。「四季花鳥図巻」の萩の花の背景に描かれた銀色の月も綺麗でしたが、銀屏風になると銀地が月光を暗示するだけで月そのものは描かれないから、そのせいもあるのでしょうか?


夏秋草図1
しばらくご無沙汰中の「夏秋草図」。

月に秋草図
金地だけれど渋い「月に秋草図」。


 ともあれ、例によって大半は抱一さんに夢中でしたが、それ以外のターナーやウォーターハウス、ロセッティ、ミレイの絵ももちろん皆素敵で素晴らしかったです。よくあんなにたくさん借りて来られたものだと感心しましたが、それにしても漱石って本当に絵画が好きだったのですね。大昔に大学の講義で『三四郎』を読んだ頃はまだ全然知識がなくてちっとも気がつかなかったので、いずれじっくり読み直してみようと思います。

 ところで7月6日の「美の巨人たち」と、翌7月7日の「日曜美術館」は何と、二日連続で鈴木其一でした。私も気がついたのが直前でここに書く暇がありませんでしたが、「日曜美術館」は14日夜に再放送がありますので、昨日気がつかなかった方はどうぞお見逃しなく!

 関連過去ログ:
 ・「虞美人草の謎 青邨・漱石・抱一
 ・「文豪の愛した絵画 抱一と漱石

 関連リンク:
 ・夏目漱石『虞美人草』(青空文庫

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文豪の愛した絵画 抱一と漱石

 2013/03/13(Wed)
 本日、5月から始まる「夏目漱石の美術世界展」(2013/05/04-07/07)のチラシを見かけてびっくり仰天しました。
チラシの一番上にどどんと載っている絵は何と、大好きな酒井抱一のそれも滅多に会えない「月に秋草図屏風」ではありませんか! うわー久々にこれ出るのねー、と喜んで手に取り、裏の説明にざっと目を通したのですが、何気なく図版紹介を見てまたまた卒倒しそうになりました。何故というに、問題の「月に秋草図屏風」は東京国立博物館寄託(!)となっていたのです。えええちょっと待って、あれってペンタックスの所蔵じゃなかったのー!?

 …というわけで、昔は(何故か)旭光学工業、その後名前を変えてペンタックスの所蔵だったあの屏風は、(その後所蔵者が変わったのかどうかは判りませんが)いつの間にか東博寄託品となっていたらしいです。ということは、これからはちょくちょく東博の常設展示でもお目にかかれる可能性が高いというわけで、これは抱一ファンには非常に嬉しいニュースですね。
 私も抱一さんはかれこれ18年ほど追っかけ中ですが、それでもあの「月に秋草図屏風」を見たのは2004年の「RIMPA」展を始めとする2、3回程度でした。抱一の作品の中では「夏秋草図屏風」と並んで重要文化財指定されている傑作で、しかも海外流出したわけでもないにもかかわらず、この屏風はなかなか会えなくてずっと残念だったのです。六曲一隻の金地のほぼ中央に銀の月を配し、墨を基調に淡いたらし込みで渋く秋草を描いた構図で、抱一得意の冴えた銀屏風とはまた違う味わいがありますよね。(この前山種で見た「秋草鶉図」に少し近いけれど、こちらはもっとシックな雰囲気です)

 ところで公式サイトを見ると、この「月に秋草図屏風」は『門』との関連で出展のようですが、抱一と漱石といえばもうひとつ例の『虞美人草』も気になります。もっとも以前このブログでも触れたとおり、あの作品に登場するような罌粟を描いた抱一の銀屏風は今のところ確認されていないので、これはさすがに出しようがなかったのでしょうね。
 それにしても、文豪夏目漱石にまつわる美術品を集めた特別展というのはなかなか面白い企画で、以前行きそびれた澁澤龍彦展もそういえば似たようなコンセプトだったなと思い出しました。ちなみに澁澤龍彦展も抱一さんが出ていたそうですが、抱一さんは文学者に好かれるタイプの画家なんでしょうか?


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「月に秋草図屏風」6/25-7/7の期間限定展示です。



 関連過去ログ:虞美人草の謎 青邨・漱石・抱一

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