百人一首の皇族歌人

 2014/01/19(Sun)
 遅まきながらあけましておめでとうございます、このブログも早くも7年目に入りました。のんびりマイペースで最近は美術展記事も少々怠け気味ですが、今年もどうぞよろしくお願いします。

 さて、お正月と言えば千尋の子供時代、親戚一同が集まった際の定番の一つが百人一首でした。
 北海道の百人一首は「下の句かるた」と呼ばれ、厚い木製の取り札が特徴で、その名の通り下の句の七七だけを読み上げるものです。おかげで歌の意味を理解したのはずっと後のことでしたが、反面独特な毛筆の字体の読み方を憶えたことで、古文書などを見た時もある程度は読みとることができるようになりました。

 この百人一首の中で、千尋が目下研究(というのもおこがましいですが)対象にしている賀茂斎院からただ一人、31代斎院式子内親王が入っています。
 そもそも百人一首全体の中で、皇族は全部で十人おり、ちょうど一割を占めています。うち天皇が8人、皇子が1人、皇女が1人で、顔触れは以下の通りです。

 ・天皇
   天智天皇、持統天皇、陽成院、光孝天皇、三条院、崇徳院、後鳥羽院、順徳院
 ・皇子
   元良親王(父:陽成院)
 ・皇女
   式子内親王(父:後白河院)

 ちなみにこの中で、天智天皇・持統天皇、陽成院・元良親王、後鳥羽院・順徳院はそれぞれ親子です。百人一首全体でも親子は合計17組いますが、天皇家だけで3組もいるのですね。
 また面白いことに、天皇家で10人もの歌人がいる割には、意外にもこの中に皇妃はいないのです(宇多天皇の寵愛を受けて皇子を産んだ伊勢は、「御息所」とも呼ばれますが妃にはカウントされないでしょう)。ただし、皇妃や皇女に仕えた女房はたくさんいて、女流歌人の大半はこうした人たちでした。

 ・伊勢(宇多女御藤原温子女房)
 ・右近(醍醐中宮藤原穏子女房)
 ・清少納言(一条皇后藤原定子女房)
 ・紫式部、大弐三位、赤染衛門、伊勢大輔、和泉式部、小式部内侍(一条中宮藤原彰子女房)
 ・相模(一条皇女脩子内親王女房)
 ・祐子内親王家紀伊(後朱雀皇女祐子内親王女房)
 ・待賢門院堀河(鳥羽中宮藤原璋子女房)
 ・皇嘉門院別当(崇徳中宮藤原聖子女房)
 ・殷富門院大輔(後白河皇女亮子内親王女房)

 また、特定の皇妃ではなく宮廷に女官として出仕した女房もいます。

 ・儀同三司母(高階貴子。円融天皇内侍、藤原道隆室)
 ・周防内侍(平仲子。後冷泉天皇女房)
 ・二条院讃岐(源頼政女。二条院女房、のち後鳥羽中宮九条任子へ出仕)

 という具合で、伝説的美女として知られる小野小町を除けば、こうした女房に含まれないのはかの「蜻蛉日記」の作者、右大将道綱母だけなんですね。平安時代の宮廷社会でいかに女性が活躍していたかがよくわかりますが、中でも一条中宮彰子の女房が飛びぬけて多いのはさすがですね。

 ところで皇妃で歌人として知られる人がいないかというとそんなことはなくて、伊勢斎宮から村上天皇女御になった斎宮女御(徽子女王)が大変有名です。しかし何故か、彼女も含めて斎宮で百人一首に入った人は誰もいません。他にも大伯皇女も万葉歌人として有名ですし、斎宮女御と共に入っていてもよさそうなものですが、定家の好みには合わなかったのでしょうか?
 とはいえ、厳密に言えば持統天皇も元は天武天皇の后でしたし、しかも元々天智天皇の娘でしたから、持統天皇の場合は天皇であり皇女であり皇妃でもある、ということになります。この持統天皇と式子内親王を絵で表す場合、高貴な身分を示すために美麗な几帳を傍らに置く構図とすることが多いのですが、こういう点は三十六歌仙絵巻の斎宮女御と同じですね。

 では最後に、百人一首の中からお正月らしく光孝天皇御製の一首を。

  君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ

 この歌、下の句かるたでは天智天皇の「わが衣手は露にぬれつつ」と紛らわしいので、衣手「に」「は」でいかに早く反応するかが腕の見せ所です。逆に普通のかるたでも取り間違いはよくあるようで、大田南畝の狂歌に「秋の田のかりほの庵の歌がるた取りそこなって雪は降りつつ」なんていうのがありますが、下の句かるたの木札は紙と違って厚くて硬いので、勢い余ってすっ飛んだ札が天井に当たったり襖を破ったりという楽しい?トラブルも結構ありました。紙のかるたも熱戦の迫力はなかなかですが、下の句かるたの豪快さも一見の価値ありですよ。


補足:
 最近読んだ中で、一番お勧めの百人一首案内の本は以下の『一冊でわかる百人一首』(成美堂出版)でした。オールカラーの写真が実に美しく、文法解説やコラムも充実しています。

 
一冊でわかる百人一首一冊でわかる百人一首
(2006/11/17)
吉海 直人

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追記:もう一点、お勧めの百人一首解説本。

 
田辺聖子の小倉百人一首 (角川文庫)田辺聖子の小倉百人一首 (角川文庫)
(1991/12)
田辺 聖子

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 この本は千尋の高校時代のバイブルでした。始めは大判の上下二巻で出た本で、母が岡田嘉夫画伯の美麗な挿絵に惚れこんで購入したのが出逢いのきっかけです。これを読んで初めて百人一首すべての歌をしっかり憶えただけでなく、田辺さんの軽妙でユーモアあふれる語り口と、わかりやすく紹介された様々な逸話の面白さにすっかりファンになってしまいました。「古典なんてつまらなくて苦手」という若い学生さんに、楽しい古典入門としてお勧めの一冊です。

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