月明かりの草花

 2010/07/10(Sat)
 本日の「美の巨人たち」はお待ちかね、酒井抱一作「夏秋草図屏風」でした。つい先日も取り上げたばかりですが、今回は番組ゲストに玉蟲敏子先生も御出演でしたので、改めてもう一度。

  
絵は語る (13)酒井抱一筆 夏秋草図屏風 ―追憶の銀色―絵は語る(13)
酒井抱一筆
夏秋草図屏風―追憶の銀色―

(1994/01)
玉蟲 敏子

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第16回サントリー学芸賞受賞


 今までにも何度か触れてきましたが、私が最初に「夏秋草図屏風」と出逢ったのは1995年、東博の特別展でのことです。まだ抱一の名前も知らなかった頃から不思議と心惹かれ、さらに玉蟲さんのこの名著を読んだのが決定的きっかけとなって、数多い抱一の作品の中でもこの「夏秋草図」はずっと一際特別なものとして追い続けてきました。
 番組中でも繰り返し述べられたように、抱一は100年前の偉大な大先輩である尾形光琳をそれは尊敬し崇拝しまくっていたらしく、言わば日本史上最初の光琳研究者としてもたくさんの仕事を残しています。しかしやはり抱一の光琳への思慕は彼自身の作品にこそ何よりも雄弁に語られており、数多い光琳作の模写を見ていると本当にこの人は光琳が大好きだったのだなあと、あまりの熱中ぶりに何だか微笑ましい気分にもなってしまうのでした。

 とはいえ、後に抱一自身の弟子鈴木其一もそうであったように、自らも本当に才能ある人は師匠の模倣だけで終わったりはしません。番組では取り上げられませんでしたが、例えば「波図屏風」は光琳の二曲一隻の金屏風を六曲一双の銀屏風に大胆に変えていますし、「八橋図屏風」もよく見れば細部を微妙に変えていて、模写と言ってもそっくり忠実に再現するのではないところに彼独自の美意識があったようです。
 何より、光琳の才能を認め限りなく崇拝していたからこそ、その敬愛する人の絵の裏に合作を挑む(!)という何とも大それた仕事に取り組んだのは、抱一にとって光琳の単なる追随だけに留まるまいとする挑戦であり、同時にまた我こそが光琳の継承者であるとの宣言でもあったように思います。偉大な光琳をある意味で乗り越え、その流れを汲みながらも自らの目指す新たな別世界を切り開こうとしそれを成し遂げた抱一の、あの絵こそが到達点でもあったでしょう。
 それでいながら、「夏秋草図」は同時にその中に込められた深い情念を滲ませて、琳派の中でも後にも先にもない抱一だけの静謐で繊細な叙情性に満ちています。今回番組を見ていて、これほどメランコリックなピアノの旋律がBGMに似合う日本画も珍しいのではないかと妙に感心しましたが(笑)、描かれた様々なモチーフもまた、ただ季節の情景を描いただけではないのですよね。
 番組中でも紹介されたように、亡き人を恋うる藤袴、尾花(ススキ)の下の思ひ草(女郎花)、恨み(=裏見)を表わす葛の葉、そしてそれらを照らし出す銀地の月光など、「夏秋草図」の中にはたくさんのメタファーが散りばめられています。光琳の「燕子花図屏風」もその背景には伊勢物語がありますが、上に挙げた玉蟲さんの著作を初めて読んだ時、これほど凝った仕掛け、引いては亡き人(=光琳)へのそれほどの想いがこの絵に隠されていたと知って大変衝撃でした。

  夏秋草図・藤袴
  亡き人を恋うる藤袴。

 それにしても、日本史上でも恐らく屈指の銀屏風の傑作として名高いあの「夏秋草図」がもし金屏風だったら、というのはまったく考えてみたこともなかったので、番組でCG再現した姿を見た時には正直仰天しました。まったく「Oh, my God!!」(笑)といった感じで、ちょっと背景を変えただけでもあれほど劇的に印象が変わるものなんですね。やっぱりあの絵は銀地だからこそ、あの類ない魅力があるのだということがよく判りました。(苦笑)

 ところで今回、東博で特別に「夏秋草図」を本来の裏屏風としての形で置いた映像が紹介されましたね。私も今から11年前、特別展「金と銀」で見て以来もう長いことあの姿で「夏秋草図」を見る機会には恵まれておらず、再会するたびにちょっと残念に思っています。特に来年は抱一生誕250年という大きな節目の年だけに、ぜひともどこかで光琳の「風神雷神図」の裏屏風としての「夏秋草図」をまた見たいものです。
 というわけで、今のところ判っている来年の抱一関連美術展予定は、以下の通り。

 ・出光美術館:酒井抱一生誕250年 琳派芸術―光悦・宗達から江戸琳派―(2011.1.8~3.21)
        第1部〈煌めく金の世界〉(2011.1.8~2.6)
        第2部〈転生する美の世界〉(2011.2.11~3.21)
 ・畠山記念館:冬季展 生誕250年「酒井抱一―琳派の華―」(2011.1.22~3.21)
 ・千葉市美術館:酒井抱一展(詳細不明)

 なお千葉市美術館では、一足先に「帰ってきた江戸絵画 ニューオーリンズ ギッター・コレクション展」(2010.12.14~2011.1.23)にて、抱一作「朝陽に四季草花図」が里帰りします。これまた14年前の「祝福された四季」でうっかり見逃して以来、悔しくて悔しくて仕方がなかった幻の作品だったので、今度こそはしっかり目に焼き付けてこなければと今から燃えているのでした。(笑)
 またこの他、京都の細見美術館も抱一コレクションの多いところですし、恒例琳派展でそろそろまた抱一特集をやってくれないかと期待しています。


 おまけ:
  夏秋草図クリアファイル
  最近新たに東博グッズに加わった、「夏秋草図」を元にしたクリアファイル。
  中に銀のシートを挟んだダブルファイルで、本物の銀地の雰囲気がよく出ています。
  (ちなみに表の光琳作「風神雷神図」バージョンもあり。^^)


関連ログ:
思い出の美術展(1) 金と銀 かがやきの日本美術
再び銀屏風
幸せな人か、それとも
大琳派展 継承と変奏(1)
大琳派展 継承と変奏(4) 見えぬものこそ
大琳派展 継承と変奏(7) 余白と移ろいの美
抱一に、うるさい(笑)
夏の雨、秋の風

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【2010/07/27 21:41】
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