漆黒の超絶技巧

 2010/01/25(Mon)
 1月17日、三井記念美術館の「江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆 × 絵」(2009/12/05-2010/02/07)へ行ってきました。
 そもそも柴田是真はあまりよく知らない人物でしたが、琳派絡みで名前を見た覚えがあり、またちょうど少し前の鏑木清方展(サントリー)にて清方と親しかったというエピソードをちらっと目にしていたこともあって、どんな内容だろうとかなり楽しみにしていました。特に清方が「(是真は)酒井抱一が好きなんだろう」と指摘したというのは、抱一好きとしても見逃せません。年末はあいにく多忙で時間が取れなかったので、年明けのようやく少し落ち着いた頃に訪れました。

 さて、漆の工芸といえば大体お馴染みなのは華麗な蒔絵だと思うのですが、今回見た是真の漆工は今まで思っていた漆のイメージからはちょっと想像できないような世界でした。
 蒔絵といえば私も金銀をこれでもかと使ったいかにも豪奢な作品を連想しますが、是真の作品は漆そのものの色を生かした、つまりはかなり色数も制限されたものなのです。だから一見地味かと思えば、実は凄まじく緻密で気の遠くなるような技巧の極致ともいえる世界なのだから、例によって見ている方がくらくらしそうでした。そもそも「漆で絵を描く」という発想からしてかなりとんでもないと思うのですが、その出来栄えがまた並々でなく素晴らしいときては、いやもう見れば見るほど唖然呆然、何故こんな凄い人があまり知られていないのかと不思議になるほどでした。今回の展示もメインは海外の個人コレクションによるものですが、日本国内であんな凄いものの価値が忘れられているというのは、つくづくともったいないです…

 ともあれ、そんな是真ですから画家としての力量も優れたもので、丸山四条派の影響が大きいという説明を何度か見かけましたが、私としては清方と同じく抱一さんのセンスに近いのではないかなという印象を受けました。抱一と漆工といえば、例の原羊遊齊との華麗な合作の数々もよく知られていますが、是真は自分で下絵をデザインして漆工もやりたいという人だったそうで、とりわけ繊細なつる草や細い枝を配した独特の構図はまさしく抱一の世界を思い出させました。(もし抱一本人に漆工の技術があれば、あんな風な作品を作ったかも?)

 そうそう、絵画といえば去年の「だまし絵展」(Bunkamura)にも是真の作品(絵の中の滝からこぼれおちる鯉)がありましたが、今回も遊び心たっぷりの愉快な作品が時おりあって、見ていて何度も絵の前で笑いを誘われました。そしてやっぱり思うのですが、抱一の弟子だった鈴木其一はモダンでシャープながら生真面目そうな画風なのに対し、是真はむしろ其一よりも抱一に近くてしかもユーモラスななところが何とも惹かれます。しかし「紫檀のように見せた漆」あたりになると、何でそんな面倒なことをそこまでしてと言う気もするのですが、このあたりは遊び心というより職人の意地でしょうか?(笑)

 何にせよ、漆でどこまで出来るかの限界にこれでもかとばかり挑戦したような是真さんは、その作品からも明治になっても江戸っ子の職人気質を頑固に守り続けた人柄が伺えるようでした。(実際、始めの頃は明治政府の仕事依頼も断っていたとか) 晩年には数々の栄誉にも恵まれたそうですが、そうでなかったとしてもこれだけ自分の信じた道を貫き通したならご本人はきっと満足だったのではないかなと、最後にそんな気がしました。

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