秋の京都便り 謎の貴婦人と首飾り

 2009/11/01(Sun)
  ボルゲーゼ美術館展

 こんにちは、昨日から京都に来ております。紅葉にはまだ少々早い時期ですが、今回は京都御所の一般公開に合わせ、東京より一足先に始まったボルゲーゼ美術館展(京都国立近代美術館、2009/10/31-12/27)と、細見美術館の恒例琳派展XII「鈴木其一」に行ってきました。というわけで、まずはボルゲーゼ展から。

 今まで京都の美術展は色々見てきましたが、考えてみると近代美術館へ行くのは何とこれが初めてです。お向かいの京都市美術館やご近所の細見美術館には何度も通っているのに、何故かしら近代美術館だけは縁がなかったのですが、今回やっと門をくぐることができて何だかちょっと感慨深いものがありました。(笑) 規模としてはそう大きな方ではないようですが、とても明るく開放的なつくりの美術館で、エントランスの吹き抜けの奥にある階段を昇って特別展会場へ入るというのも面白かったです。
 さて、日本初公開というイタリア・ボルゲーゼ美術館のコレクションの中で、今回最大の目玉は何と言っても、ラファエロの「一角獣を抱く貴婦人」です。

  一角獣を抱く貴婦人


 元々ポスターで見た時から大変楽しみな絵でしたが、いざ会場で実物と向き合ってみて、印刷とはまったく違う澄んだ色彩の明るさに驚きました。ややクールな青い瞳をこちらに向ける女性の白い肌と薔薇色の頬の美しさもさることながら、淡い青空に映える金髪の細やかな描写の凄いことと言ったら、単眼鏡で覗いてみてあまりの緻密さに息を呑み、しばしその場から動けませんでした。また印刷ではやはり沈んだ暗い色合いのドレスの袖も、実物ではもっと明るく華やかな深紅でしたし、印刷と実物とでこれほどギャップを感じた絵は久しぶりです。幸い会場は東京とは違ってかなり空いていたので、ゆっくりじっくり心行くまで絵の前に佇んでしっかり目に焼き付けてきましたが、もちろん東京へ巡回した時にも絶対会いに行かなければ!と固く心に誓いました。
 ちなみにこの絵、後世の加筆によって全然違う絵柄になっていたというのを今回初めて知りまして、これまた驚きでした。以前は一角獣の姿をすっぽりマントと車輪で覆い隠した「アレクサンドリアの聖カタリナ」の絵になっていたそうで、当時の白黒写真も隣に展示されていましたが、あの鮮やかな深紅のビロードの袖を隠してしまうなんて、何とももったいなく無粋なことをしてくれたものです。幸い研究者たちの努力により、現在では本来の姿を取り戻していますが、昔の人たちは何も知らずに長い間騙されていたんでしょうねえ。

 ところで話は飛びますが、ラファエロの作品の中でも日本ではあまりポピュラーとは言いがたいこの絵、実は塩野七生ファンの一部には非常に馴染み深いものです。塩野さんの小説「銀色のフィレンツェ」の中で、主人公が恋人のために作らせた首飾りのモデルが、恐らくこの絵の貴婦人が身に着けている首飾りなのですよ。金で縁取ったエメラルドとルビー、その下に雫型の真珠というデザインはまさしくこの絵のままで、昔小説を読んだ時にはまさかこの絵が日本に来てくれようとは夢にも思いませんでした。今回ミュージアムショップには「イタリアからの手紙」「イタリア遺聞」などの塩野作品も並んでいましたが、どうせならぜひ「銀色のフィレンツェ」も置いてください美術館さん!

  
銀色のフィレンツェ―メディチ家殺人事件 (朝日文芸文庫)銀色のフィレンツェ
―メディチ家殺人事件
(朝日文芸文庫)

(1993/10)
塩野 七生

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 ところでもうひとつ、この絵を見ていてふと思い出したのが、よく似た構図のコレッジオの「貴婦人の肖像」でした。

  貴婦人の肖像

 静かな面持ちでこちらを見つめる女性のあるかなきかの微笑はどこかモナリザにも似ていますが、彼女にしろ「一角獣」の女性にしろ、これらの女性たちは皆モデルが誰なのか判っていないという共通点があります。それ故に一層ミステリアスな魅力を纏った独特の美しさを湛え、背景の爽やかに明るい青空とは対照的に不思議な暗さとも悲しみともつかない何かを感じさせますけど、私としては彼女たちが「誰」なのかはむしろ永遠に判らないままの方がロマンがあっていいですね。

 ともあれ、この他にも度肝を抜かれるような緻密なモザイク画だとか、レオナルドの「レダ」の模写だとか(ただし私が知っている模写とは違って、今回の絵ではレダの足元の卵はひとつしかありませんでした)、はたまたカラヴァッジオ最晩年の「洗礼者ヨハネ」だとか(例によって明暗くっきりの絵の中で、真っ赤な祭壇布の鮮やかな色彩がとても印象的でした)、見所は色々とあるのですが、あちこち飛び回ってすっかりくたびれてしまったので、本日はこの辺でひとまず区切りといたします。


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