やまと絵とは何か

 2009/06/22(Mon)
 昨日6月21日はBunkamuraの「奇想の王国 だまし絵展」(2009/6/13-8/16)と、出光美術館の「日本の美・発見II やまと絵の譜」(2009/6/6-7/20)を見てきました。どちらもとても面白く見応えがあり、書きたいことはたくさんあるのですが、まずはやまと絵の方から。

 今回まず一番目を引かれたのは、英一蝶(はなぶさいっちょう)の「桜花紅葉図」と題した二幅対の作品でした。右が山桜に燕、左が紅葉に鶺鴒で、どちらも枝からひらりと短冊が下がり、大きくとった余白にひとつふたつ散る花びらや葉が何とも洒脱な余情を感じさせて、遠目で見た時は一瞬酒井抱一かと思ってしまいました(笑)。一蝶は名前こそ知っていたものの、作風までは頭に入っていなかったのですが、芭蕉や其角と親交があり自らも俳諧を嗜んだというところなど、ますます抱一さんと共通していたようです。というより、時代から言って抱一さんの方が一蝶の影響を受けた可能性も考えられるわけで、これは今後気をつけてチェックしておこう、と心に決めました。(そしてちょうどタイミングのいいことに、板橋美術館で9/5-10/12に一蝶の特別展があるそうです。楽しみ♪)
 またもう一人、これまた名前は知っているけれど実は今まであんまり好みではなかった、岩佐又兵衛もなかなか面白かったです。古典的なやまと絵とは大分雰囲気の違う源氏や業平も印象的でしたし、特に「職人尽図巻」は画面全体が何とも大らかな笑いに満ちていて、画家自身の戦国の乱世に翻弄された生涯とは随分異なる世界に正直意外な気がしましたね。又兵衛というと「嵯峨野明月記」に登場するやや狷介なあのキャラクターがそのまま焼き付いてしまっていたのですが、こんな絵も描けたんだ、と何だかちょっとほっとしました。

 さて一方、正統派古典的なやまと絵の方はと言えば、まずびっくりしたのが「小柴垣草紙」です。知る人ぞ知るマイナー作品ながら、斎宮に興味のある人なら恐らくすぐに思い当たる問題作(笑)で、正直題名を見た時は一瞬ぎょっとしました。まあさすがに今回の展示はごく普通の場面でしたが、これについては田中貴子氏の著作「聖なる女―斎宮・女神・中将姫」(人文書院)に「密通する斎宮」というテーマでなかなか面白い考察があったので、興味のある方は読んでみてください。
 もう一つ、狩野探幽の大作「源氏物語 賢木・澪標図屏風」は過去何度か見たことのある大好きな作品ですが、前に立って見ていたら隣の若い男性のグループが面白いことを言っていました。「これってさ、こっちとこっちのこの鳥居が線対称になってるんだな」…なるほど、それは全然気がつきませんでした! 前からどうしてこんな全然関係のない話が対になっているのか不思議に思ってたのですが、そういう図柄の構図が理由だったんですね。(そしてこの考え方で見ると、静嘉堂所蔵の俵屋宗達作「関屋澪標図屏風」も確かに構図がそっくりでした)

 ところで今回、一番頭を悩ませた作品は冷泉為恭の二幅対の掛軸絵「雪月花図」です。
 左の枕草子は「雪」、すなわち有名な「香炉峰の雪」の場面で一目瞭然なのですが、右の「月花」の源氏物語「若菜」がどの場面なのか、どうもよく判らない。遠くの山の上に月がかかり、寝殿の中央に身分高い貴婦人らしき女性がひとりと、その側に控える女房たち、そして外の簀子(濡縁)に公家と武官と少年が控えているだけの絵柄で、図録を見てもそれ以上の解説はないのです。よく見ると武官の男性が髭もじゃで、それならこれは髭黒大将かとも思ったのですが、玉鬘が光源氏の四十賀を祝う場面(旧暦1月23日)にしては藤の花が咲いているのはおかしいし…はてさて。
 結局、当日は担当の学芸員さんが不在でお話も聞けなかったのですが、帰宅後改めて調べてみて、もしかすると朧月夜の君と光源氏の再会の場面だったのかな、と気がつきました。逢瀬なら時間は夜、しかも朧月夜はかつて桜花の宴の宵に源氏と出逢った女性ですから、その想い出に繋がる「月」「花」を暗示しているとも考えられ、「花宴」も含むという解説もそれで判ります。…しかし「若菜」で花といえば通常は柏木が女三宮を垣間見した場面が来るでしょうに、こんな判りにくい絵柄一目で判る人はちょっといないですよ為恭さん。
 それからもうひとつ、問題の朧月夜らしき女性のポーズを見た時あっと思ったのですが、姿勢はもちろん畳の上に伏して几帳を側に立てたところまで、かの佐竹本斎宮女御の絵にそっくりでした。さすがに近代らしく構図は平安時代よりずっと遠近法も正確で、それでいて王朝趣味豊かな世界は平安時代に心底傾倒していた為恭らしく、とても高雅な気品のある美しいやまと絵でしたね。(何しろ昔新日曜美術館で「平安オタク」なんて言われた人ですし。笑)

 この他にも、古くは奈良時代の絵巻から浮世絵や土佐派まで、作品数の割にはジャンルも実に多彩な内容でした。今回佐竹本の人麻呂と僧正遍照がなかったのが残念でしたが、いつもながら手持ちの所蔵品だけでこれだけの内容の展示ができるあたり、さすが出光さんです。

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コメント
こんばんは。先日は一蝶の前で失礼しました。
抱一風、本当に見れば見るほどそうですよね。板橋の展示でもその辺の類似点を探れればと思いました。

>雪月花

抱一のイメージがあったので、まさかあれほど重厚な作だとは知らずに見てしまいました。今回のハイライトでしょうか。

又兵衛の源氏は何かモデルとなるものがあるのでしょうか。ちょっと異質ですよね。(笑)
【2009/07/17 01:47】 | はろるど #l5HLehIY | [edit]
>はろるど様
こんにちは、こちらこそ無理に引っ張っていってしまって失礼しました。
一蝶は時折作品を見かける割には今まで印象の薄い画家だったのですが、
ちょうどいい美術展のことも教えていただいたので、これから秋までに
ちょっと勉強しなおそうと思います。
【2009/07/17 07:15】 | 管理人 #- | [edit]












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