秋は酒井抱一!

 2013/07/28(Sun)
 この秋久方ぶりに、酒井抱一作「夏秋草図屏風」が東京国立博物館の本館常設展示に登場します!

夏秋草図1


 今回は秋の特別公開ということで、9月18日(水)から29日(日)までとやや期間は短いながら、同時期に「四季花鳥図絵巻」も合せて見ることができます。(※「四季花鳥図」の展示期間は8/20-9/29) 東京国立博物館ニュース8・9月号でも大々的に取り上げていますので、抱一ファンの皆様はぜひお見逃しなく!!

 …それにしても、今回はわずか二週間足らずと本当に短期間ですが、思えば夏から秋にかけてのこの時期にこの屏風を見た記憶はあまりないような気がします。一昨年の千葉での酒井抱一展はもう晩秋に近い頃でしたし、その前の2010年はちょうど今頃の夏真っ盛りで、「美の巨人たち」でも「暑中見舞い代り」なんて言われてたのですよね。
 なお今回の展示はちょうどお彼岸の時期で、しかも9月19日(木)は旧暦の八月十五日、つまり中秋の名月です。ただ特別展の期間からは外れてしまったため、今回金曜日の夜間開館はないのですよね。もし20日が20:00まで開館だったら、閉館ぎりぎりまで鑑賞した後で帰り道は十六夜月を楽しみつつ上野駅までそぞろ歩き…なんていう風流な楽しみもあったのになあ、とちょっと残念です。


追記:
 問題の東博ニュースを眺めつつ、今回は裏屏風の置き方で展示してくれるといいなあ、と考えていたら、ふといいことを思いつきました。

夏秋草図(東博ニュース)


 というわけで、画集のページは恐ろしくてさすがに折れませんが、東博ニュースなら綺麗な印刷で大変お手軽に本来の姿の「夏秋草図屏風」を再現できます。これから東博へ行く機会のある方は、ぜひ東博ニュースをもらってきて試してみてくださいね。

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2014年美術展速報・クリーブランド美術館展

 2013/07/27(Sat)
 ちょっと気の早い話ですが、来年年明け早々に東京国立博物館で「クリーブランド美術館展」(2014/1/15-2/23)が開催されるそうです。おや珍しい、と思った直後、そうえいばどこかで聞いたような…と頭を捻り確認してみたら、ここは酒井抱一の屏風「桐菊流水図屏風(Paulownias and Chrysanthemums)」を所蔵しているのですよね。抱一の屏風作品は比較的よく国内に残っているのですが、たまに海外にあると珍しくてこういうマイナーな(と言っては失礼ながら)美術館の所蔵品があると、さほど有名でないものでも印象が強くて何となく憶えていました。
 ともあれ、この屏風は当然ながら私もまだ一度も実物を見たことがありません。しかも来年の特別展はテーマが「名画でたどる日本の美」なので、もしかするとこの機会に来日してくれるかも…と密かに期待しています。

 参考リンク:クリーブランド美術館(Collection Onlineに画像あり)

 ちなみに大分前、板橋区立美術館の酒井道一作↓をちらっとご紹介しましたが、クリーブランドの屏風は絵柄も全く同じで板橋所蔵の本絵です。ただしクリーブランドの抱一作は残念ながら右隻?のみで、白菊と土坡を描いた左隻はありませんが、右隻の「夏秋草図屏風」を思わせる濃紺の水の流れはぜひ実物を見てみたいですね。こちらは華やかな金屏風で大分印象も違うでしょうし、それに抱一さんの事ですから、きっとこれもいい絵の具をたっぷり使っていることでしょう(笑)

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 ところでクリーブランド美術館と言えばもうひとつ、2004年の琳派展(東京国立近代美術館)で渡辺始興作「燕子花図屏風」が里帰りしたのを見たことがありました。尾形光琳と同じ題の金屏風ながら、何だか花が半分溺れかけているような構図がちょっと風変わりで印象に残っている絵です。こちらもなかなかお目にかかる機会がないので、一緒に来日してくれるといいですね。(ちなみに光琳の屏風もあるようです)

 なおちょっと話は違いますが、先日デトロイト市が財政破綻したというニュースで、もしかすると美術館のコレクションも売りに出されるかもしれないという話をちらりと聞きました。ちなみにデトロイト美術館も抱一さんの三幅対「雪月花」を所蔵しているところで、他のコレクション共々今後が心配です。公立の美術館の所蔵品が売りに出されることなんて今まで考えたこともなかったのですが、どうなるんでしょうか…

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金の月夜、幻の銀屏 夏目漱石の美術世界展

 2013/07/08(Mon)
 7月6日(土)、会期ぎりぎりでようやく「夏目漱石の美術世界展」(東京藝術大学美術館、2013/5/21-7/7)へ行ってきました。

 既に触れたように、今回は酒井抱一の幻の作品とも言える「月に秋草図屏風」が久々にお目見えというだけに、抱一追っかけとしては是非とも行かねばなりません。しかしこの大本命はラスト2週間のみの出展というので、それではのんびり待っていようと思っていたら、6/2放送の日曜美術館でびっくり仰天しました。
 漱石と抱一と言えば真っ先に連想する例の『虞美人草』に登場する銀屏風、あれは恐らく漱石が創作した架空の作品と思われるのでさすがに出せないだろうと思っていたら、何と芸大の先生が「こんな感じだったかもしれない」屏風をわざわざ描いたというのです(!)。そう来ますか!?と驚愕、いやー随分と大胆な思い切った企画に出たものですが、さすが芸大ならではの離れ業?ですね。

 さて、その問題の「虞美人草図屏風」ですが、実際に見た印象は正直言ってちょっと違うかなあ?という感じでした。
 確かに「方六尺の銀屏」ではありますし、また虞美人草の描写も「四季花鳥図巻」を思わせるものではあるのですが、全体の構図は抱一さんだったらああはしないのではないかしら、と思うのです。大体抱一さんは「く」の字型とかV字型とかの非線対称な構図を好む人ですし、余白の面積はともかくああいうトリミングの仕方は何だか違和感があるのですよ。それに「柔婉なる茎を乱るるばかりに」「会釈もなく緑青を使って」という描写は、青邨の「罌粟」ほどではないにせよ、もっとたくさんの花を描いたイメージだったのではないかと感じました。
 ちなみに会場には漱石が所蔵していたという図録も展示されていて、その中にかの「夏秋草図屏風」の写真もあったので、漱石はほぼ間違いなくあの絵を知っていたはずです。同じ銀屏風でも「波図屏風」や「紅白梅図屏風」は知らなかったかもしれませんが、そうだとしたらなおさら「抱一の銀屏風」で「夏秋草図」を連想しなかったとは思えません。そしてその銀地が「亡き人を追慕する」月光を象徴する色であることを、漱石は知っていたのでしょうか。

「すべてが美くしい。美くしいもののなかに横(よこた)わる人の顔も美くしい。驕る眼は長(とこしな)えに閉じた。驕る眼を眠った藤尾の眉は、額は、黒髪は、天女のごとく美くしい。」

 漱石は死の床に冷たく横たわるヒロインを、このように描いています。その枕元に立てられた、銀地とは言え艶やかな赤や紫に咲く虞美人草(ひなげし)と鮮やかな緑青の葉を描いた屏風を、漱石はどのように思い描いていたのでしょう。文章から受けるイメージが何とも濃艶な印象だけに、今回の「推定試作」を前に改めてつくづくと考え込みました。
 なおこの銀屏風、原作の通りに逆さに置いたりはしないのかなと思っていたら、一日限定で本当にそれもやったそうですね。(笑) 知らずに見逃してしまったのはちょっと残念でしたが、やっぱりそれも考えたんだなと思ったらちょっとおかしく、またスタッフの皆様の熱意とこだわりを感じて嬉しかったです。

 ところでそういえば、今回この「虞美人草図」は銀の黒変を考慮して、花の部分の銀箔を切り取って描いたそうです。しかし抱一さんの銀屏風って、「夏秋草図」「紅白梅図」「波図」の三点いずれも、黒変というほどの極端な焼けは見られないのですよね(特に、一番早いはずの「波図屏風」の銀の美しさは感動的です)。
 ちょうど同時期に江戸東京博物館で開催中のファインバーグ・コレクション展で、其一の息子(つまり抱一の孫弟子)守一の銀屏風は無残に焼けて黒くなってしまっていましたが、あれは抱一さんやっぱり何か彼だけの特殊な処理をしていたのではないかと思うのです。以前宗達が描いた謡本でも綺麗な銀色を残しているものを見たことがありますが、閉じておけば空気に触れず硫化を防げる本とは違って、屏風(それも「夏秋草図」と「紅白梅図」は裏屏風です)はどんなに大事に保管しても限度があったでしょうし、事実弟子の其一や池田孤邨の銀屏風もやっぱり黒くなってるんですから。


 一方、久々にご対面の「月に秋草図屏風」についても、改めてじっくりと見てまた新しい発見がありました。
 今まであまり意識したことがなかったのですが、この「月に秋草図」、色んな意味で「夏秋草図」とは対照的な作品です。「夏秋草図」はクールな銀地ながら彩色は非常に鮮やかな作品ですが、「月に秋草図」は画面を大きく占める葛の葉と茎の大部分が渋い墨で描かれていて、金地でありながら非常にシックな印象です。よく見るとその墨の茎のところどころから緑青で描いた葉が伸びているのですが、葛の根元に咲く花で最も目立つのは青い桔梗で、赤系の色は葛の花の淡い桃色以外にありません。「夏秋草図」ではススキと葛がどちらも鮮やかな緑青でくっきりと描かれ、さらに白い百合と紅い蔦紅葉のコントラストが一層それを際立たせているだけに、逆にこちらの方が普通の銀屏風のような渋さだなと思いました。

 それにしても、金屏風に銀の月、というのは宗達やさらに古い作品にもよくありますが、大抵はアーモンド型の半月が多く、ああいう真ん丸な月はあまり見たことがない気がします(いわゆる「武蔵野図」の月は丸いですが、あのごろんと転がった巨大な月もある意味凄い。笑)。抱一さんの作品でも、山種所蔵の「月に秋草鶉図屏風」は黒い月ですし、そもそも抱一さんの場合、掛け軸はともかく屏風で「月」をはっきり描いた作品自体、意外なようですが珍しいですよね。「四季花鳥図巻」の萩の花の背景に描かれた銀色の月も綺麗でしたが、銀屏風になると銀地が月光を暗示するだけで月そのものは描かれないから、そのせいもあるのでしょうか?


夏秋草図1
しばらくご無沙汰中の「夏秋草図」。

月に秋草図
金地だけれど渋い「月に秋草図」。


 ともあれ、例によって大半は抱一さんに夢中でしたが、それ以外のターナーやウォーターハウス、ロセッティ、ミレイの絵ももちろん皆素敵で素晴らしかったです。よくあんなにたくさん借りて来られたものだと感心しましたが、それにしても漱石って本当に絵画が好きだったのですね。大昔に大学の講義で『三四郎』を読んだ頃はまだ全然知識がなくてちっとも気がつかなかったので、いずれじっくり読み直してみようと思います。

 ところで7月6日の「美の巨人たち」と、翌7月7日の「日曜美術館」は何と、二日連続で鈴木其一でした。私も気がついたのが直前でここに書く暇がありませんでしたが、「日曜美術館」は14日夜に再放送がありますので、昨日気がつかなかった方はどうぞお見逃しなく!

 関連過去ログ:
 ・「虞美人草の謎 青邨・漱石・抱一
 ・「文豪の愛した絵画 抱一と漱石

 関連リンク:
 ・夏目漱石『虞美人草』(青空文庫

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