衣裳から見る源氏物語の世界

 2008/09/30(Tue)
 先日の源氏展についてコメントをいただきましたので、今日はちょっとそれに関する話などしてみようと思います。
 平安時代の装束についてお勉強となると、美術展のグッズコーナーなどでもよく「かさねの色目」あたりを見かけます。ちなみに私も持っていますが、こういう本は文字通り「色目」の見本こそ網羅しているものの、それを実際の衣裳にしたらどんな感じになるかはちょっと判りにくいのですね。
 というわけで、「これじゃ全然想像できないよ!」という方に、千尋のお勧め本をご紹介します。

  
服装で楽しむ源氏物語 (PHP文庫)服装で楽しむ源氏物語 (PHP文庫)
(2002/05)
近藤 富枝

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 文庫本と侮るなかれ、私が知る限り、源氏物語に登場する衣裳の紹介本ではもっとも判りやすく楽しい本です。ある程度物語についての基礎知識は必要ですが、カラー口絵には紫の上や明石の君などの衣裳の袖口を再現した写真が載っていて、これが本当に「ああ、あの色目が着物になるとこういう風になるんだ」というのがよく判ります。
 また他にも、桐壺更衣の衣裳はいわゆる十二単よりももっと唐風だったのではないかとか、細長とは一体どんな衣裳だったのかとか、花嫁衣裳はあったのかとか、ある程度古典に馴染んでいるつもりの読者にも目から鱗が落ちるような話が結構あって、勉強にもなる上読み物としても楽しい本です。現在はちょっと手に入れにくいようですが、PHP文庫ならブックオフあたりで探すと案外見つかるかもしれませんね。

  
平安朝の文学と色彩 (中公新書)平安朝の文学と色彩 (中公新書)
(1982/11)
伊原 昭

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 こちらはもう少し専門的な内容ですが、とはいえ中公新書ですから比較的読みやすい本です。平安時代の色彩感覚や、枕草子から伺える清少納言の美意識などに触れた後、いよいよ本命という感じで登場する源氏物語の色彩論は、他では読んだことのない刺激的で面白いものでした。
 私がとりわけ驚きだったのは「光源氏はどんな色の衣裳を着ていたか」に関する部分で、結論から言ってしまいますと、晴れの装束は意外に少ないのです。美男の代名詞として名高い光源氏ですが、紫式部は彼の美貌を表すのに贅沢で華やかな衣裳を用いるのではなく、むしろ鈍色(濃いグレー)の喪服やありきたりな白い直衣(白は直衣の一般的な色)を纏わせているのですね。やつれた喪服姿さえ艶に美しいとか、白い衣裳をしどけなく纏っている姿が優美であるとか、そういうモノトーンの姿を作者は源氏を最も引き立てるものと考えていたようです。…何だかちょっと、パトロンの奥方が参加する衣裳比べで黒羽二重に白無垢の衣裳をコーディネイトしたという、有名な光琳の逸話を連想させますね。(笑)

 ところで、実は私自身、一度十二単を着たことがあります。
 さすがに本格的な着付けではありませんでしたが、2003年に京都・仁和寺で開催された十二単フォーラムで、一応正式な裳唐衣姿をさせていただきました。しかしこの日は5月だというのに暑いの何の、30度という気温の中であの重い衣裳を着ているのはかなり大変で、後半はのぼせかけて突っ伏していた記憶しかありません。(笑) しかも袴の裾をさばくのに苦労したせいか、翌日は太ももが筋肉痛になってしまいました。(^^;)
 なお今年の5月、京都文化博物館の源氏物語展でも久々に着付け体験をやってましたが、その時見た中に以前千尋が着たのとそっくり同じ色・柄の衣裳があってびっくりしました。あのフォーラムで使われた衣裳は色も柄もかなりたくさんあったはずなんですが、もしかすると本当に私が着た衣裳そのものだったかも…?

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源氏物語の1000年 あこがれの王朝ロマン

 2008/09/24(Wed)
 お待ちかねの大琳派展、本日連続講演会の落選通知が届きました。(涙) 定員380名に対して申込570名とはいえ、2倍を切っていたにもかかわらずの落選は正直かなりショックです。特に初日と二日目はともかく、最終日の「酒井抱一と江戸文化」はぜひ聴きたかったのになあ…しくしくしく。

 さてそれはともかく、昨日は横浜美術館にて開催中の「源氏物語の1000年」展へ行ってきました。源氏関連の美術品はどこへ行ってもよく目にしますが、今回は特に近世・近代から現代にかけての絵画作品で初めて見るものが多くて、とても面白かったです。中でも特に愉快だったのが梶田半古の「源氏物語図屏風」で、全五十四帖からそれぞれ特定の場面を取り上げて描くという手法は伝統的なのですが、「え、これをこの場面で描くの!?」というような奇抜な題材や斬新な構図が多かったですね。(とりわけ「葵」の六条御息所が生霊になって現れた場面は怖かった。^^;)

 ところで、源氏物語に関する絵といえば何と言っても国宝「源氏物語絵巻」ですが、これに関してちょっと前から気になっていたことがあります。
 現存する絵巻作品は殆どが物語の後半から宇治十帖にかけてで、おかげで光源氏はまあともかく、最大のヒロインである紫の上が登場する絵はたった一つ「御法」しかありません。さらに、以前五島美術館で復元模写を見た時気付いたのですが、この場面での紫の上の衣裳は白なのです。紫の上といえば、かの「玉鬘」の衣裳配りで光源氏自らが選んだ葡萄染めに今様色のような華やかな赤系統というイメージが強かっただけに、最初は正直意外でした。
 もっとも、「御法」のあの場面はその後まもなく衰弱した紫の上が露のようにはかなく息を引き取ってしまうわけで、となるとそういう時に最も盛りの頃の艶やかな衣裳をまとった姿で表すのは確かにふさわしくない気もします。とはいえ「玉鬘」とそれに続く「初音」、そして「若菜」女楽の場面など、最高のヒロインにふさわしい華やかな紫の上を知っている読者の一人としては、そういう幸せだった頃の姿も絵巻で見てみたかったですね。(とはいえ、私が一番好きなのは実は藤壺なんですけれど。笑)

 さて、衣裳といえばもう一つ、これまた気になっていたのが何を隠そう作者・紫式部です。
 土佐光成の有名な肖像画(もちろん想像図)を始め、紫式部を描いた作品も今回数多く出ていましたが、単純な千尋は見るたびにいつも「どうして『紫式部』なのに紫の衣裳を着せないんだろう?」(笑)などと思っていたのです。もちろんこの場合の「紫」は「紫の上」から来ているものであって、色としての紫と直接関係ないことくらいは知っていますが、でもその方が判りやすいと思うのですよね。(現に吉永小百合の紫式部はまさしく紫の十二単だったし。笑)


  紫式部

  (現在、京都・風俗博物館にて展示中の紫式部のお人形。11/29まで)


 なお今回出展の紫式部像は衣裳も結構よりどりみどりで、中でも特に惹かれたのは伊藤小波作「待月」でした。縹色(青)の袿に若草色?の唐衣と薄い裳をつけ、画面には描かれていない月を見上げているらしき姿とごくあっさりした筆致で描かれた背景がよく合っていて、絵葉書やグッズに使われていなかったのが残念でしたね。他にも狩野派や上村松園の紫式部などもありましたが、文句なしにこの絵が一番素敵だと思いました。

  紫式部
  伊藤小波作「待月」(部分)

 そうそう、今回は清原雪信の作品が二点も出ていて、これまた嬉しかったです。母は狩野探幽の姪、父は久隅守景という血筋の凄さで知る人ぞ知る割になかなかお目にかかれない絵師ですが、やはり女性画家だからでしょうか、落ち着いた品のいい穏やかな画風が魅力的でした。

 そんなこんなで、午後からは横浜市歴史博物館での「幻の宮「斎宮」を語る」シンポジウムが控えていたため、心もち早足での観覧となりましたが、絵画以外にも様々なジャンルの展示品があってとても見応えがありました。時間があればもう一度くらい見に行きたい気もしますが、来月以降は忙しくなるしちょっと厳しいかな…?


おまけ:
  源氏切手

 一昨日22日、「源氏物語一千年紀」記念切手が発売になりました。今回は久々に初日に郵便局へ飛んでいって記念スタンプも押印してきたので、シートには若紫を覗き…もとい、垣間見する光源氏の横顔がべたべたべた…(笑)

P.S
 そういえば今回の絵柄、上記「御法」は入ってませんでしたね。何故でしょう?

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箱の中の内なる宇宙 不思議な箱のコーネル

 2008/09/21(Sun)
 今日の新日曜美術館は、先週予告を見た時から大変楽しみでした。といっても、そもそもジョゼフ・コーネルという名前も彼の作品もまったく知らなかったのですが、一目見た瞬間「うわあ、澁澤龍彦が好きそう~」と思ったのです。(笑) もちろんそれは私自身も好みのタイプということで、番組を見終わった時にはすっかりコーネルの虜になってしまいました。
 自らの孤独(決して悪い意味ではなく)をあんな風に怖いほど美しく表現できたコーネルという人は、さぞかしその心の中にも宝石箱のようなファンタジア溢れる無限の宇宙を持っていたのだろうと思います。ただ、ご本人はきっと淋しいとか哀しいとか思ったりはしなかったのでしょうが、並大抵の人間には同じような生き方はなかなかできないでしょうね。
 ともあれ、言葉を使わない詩人とでも言えばいいんでしょうか、どこか不思議に懐かしくて謎めいていて、作品や番組でも使われたオルゴールの音色が本当に似合う素敵な作品ばかりでした。ごく小さいもののはずなのに底知れない、凍った時間を閉じ込めたようなあの世界を、今度は実物で見てみたいです。(幸い今川村記念美術館で見られるそうなので、近いうちにぜひ!)

 ところで、番組中でゲストさんの「コーネルは自分の作った箱の中に入ってしまった」というコメントがありましたが、それを聞いた時にふと、もう亡くなった安房直子さんという童話作家を思い出しました。詳しい説明はここでは省きますが、あの人だったらそんな話を書けるのではないかなと思ったのです。しかも安房さんの話は時々とても怖くて、異世界に迷い込んだ人がそのまま帰ってこないで終わってしまったりもするのですが、コーネルの箱も何だか本当に魅せられた人をその中に引き込んでしまいそうにも見えました。……うわあ怖い(笑)

  
銀のくじゃく―童話集銀のくじゃく―童話集
(1975/07)
安房 直子

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  ※一番好きだった童話集。怖い話も多かったです(^^;)


 また今回、コーネルの箱というものを初めて知ったはずなのに、どうも微妙な既視感めいた印象がありました。特に月とか星空とかのモチーフは確かに私の好きなものですが、それにしても何だか、澁澤龍彦や安房直子以外でもこんな世界をどこかで見たような気がしたのです。気のせいかなとも思いつつ、ともあれ早速ネットで検索しまくって色々な作品の写真を見てみたのですが、突然はたと気がつきました。
「そうか、東逸子さんだ!」
 思えばあの人の描く絵も夜や宇宙が多く、また冷ややかにも思える硬質で透明な美しくも幻想的な世界が、コーネルの箱にどこか似ていると思ったのです。私が一番好きな絵本は「銀河鉄道の夜」ですが、そういえば賢治の作品の世界も、コーネルの詩情溢れる箱の世界に通うものがあるかもしれませんね。


月光公園 (ミキハウスの絵本)月光公園 (ミキハウスの絵本)
(1993/11)
宙野 素子東 逸子

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 結局のところ、コーネルが何のために箱を作ったのかは本人以外には永遠の謎なんでしょうが、こういう謎は何も無理に答えを出さなくてもいいですよね。むしろ何のためにでもなく、逆に箱を作るためにこそ生きた一生だったのではないかと、ふとそんなことを感じました。


参考リンク:
 ・ジョゼフ・コーネルの七つの箱(川村記念美術館)
 ・天体と宇宙の美学(滋賀県立近代美術館蔵)
 ・コーネル作品集サイト(海外)


P.S
 コーネルの作品って、レプリカとかってグッズにないんでしょうか(笑)
 番組である人が「普段美術作品を欲しいとは思わないんだけれど、コーネルは欲しいと思った」と言っていましたが、私も欲しいです~~!(なければせめて写真集を!)

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ちょうどお彼岸なので

 2008/09/21(Sun)
 昨日のフェルメールと芳崖の後は、築地本願寺へ抱一さんのお墓参りに行ってきました。(笑)
 最初に行ったのはかれこれ9年前で、ちょっともう写真もどこ行ったか判らなくなってしまったので、改めての撮影も兼ねて久しぶりのご挨拶です。正面入り口を入って左の奥、樹の茂る一角に並んだいくつかのお墓の一番左端の墓標が、抱一のお墓でした。

  抱一墓1

  抱一墓2

 椿かあるいは山茶花の木でしょうか、側の枝がわっさりとお墓の上に被さっていて、写真を撮るのにちょっと苦労しました。今は緑の葉ばかりですけれど、花が咲いたらきっと綺麗でしょうね。

 ところで帰りにふと寄った八重洲ブックセンターにて、今月の「美術手帖」が琳派特集だったので手に取ってみたら、いやかなり言いたい放題の愉快な内容で大笑いしてしまいました。特に抱一はやっぱりお坊ちゃまで其一をこき使ってた人(笑)みたいに言われてましたが、其一贔屓の人から見ればどうしてもそうなってしまうのはある意味仕方ないんでしょうね。(しかしおかげでこの前の「朝顔図屏風」の時、あんな説明になってた訳もよく判りましたよ。笑)

 ともあれ、琳派の絵師四人(宗達・光琳・抱一・其一)と並べるなら、その中で一番異質?に見えるのは、私としてはむしろ抱一ではないかと思います。それに其一が長年(抱一の弟子として代作をしていたために)抑圧されていた(笑)云々というのも、他の画家も同じように代筆や共同制作(一種の工房作?)が当たり前だったらしいということになれば、必ずしも素直には頷けません。大体狩野派だって土佐派だって偉いご先祖や大先輩の真似も大事な修行の一環だったのですし、その意味ではやってることは大差なかったんじゃないかと思うのです。(もちろん素人考えですけれど)
 それともうひとつ、これは私自身のささやかな経験上の話ですが、模倣というのはひたすらお手本を真似て真似て限界まで真似て、どうしても真似しきれないところまで行き着いた時に初めて「自分(の画風)」というものが見えてきたりするものです。其一も始めは抱一そっくりでしたが、それでもよく見れば構図だとか筆致だとかが何となく違うなと感じたりしますし、だから多分抱一の下での長い下積みも決して無駄な経験ではなかったのではないかしら、と(多分に希望的観測も含めて)思うのでした。

 とはいえ、其一の目指した方向は確かに抱一とははっきり違っていましたし、師匠を越えてやろうとかそう思ったかはともかく、自分はあの人と同じ道は行かないぞ、みたいな意気込みはあったかもしれませんね。その結果が抱一より光琳や若冲に近く見えるのがちょっと愉快ですが、ともあれ大琳派展ではそのあたりの比較も楽しみです。

美術手帖 2008年 10月号 [雑誌]美術手帖 2008年 10月号 [雑誌]
(2008/09/17)
不明

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フェルメール展  光の天才画家とデルフトの巨匠たち

 2008/09/20(Sat)
 しばらく抱一が続いたので、この辺で話題変わって今日はフェルメールと狩野芳崖を見てきました。で、まずはフェルメールから。

  フェルメール
  (西洋美術館向かいの看板。今回この「手紙を書く婦人と召使い」が一番気に入りました)

 昨日の天気予報では、関東は今日のお昼まで台風による大雨とか言っていたので、それなら少しは客足鈍るかなーと期待していたのですが、朝になったらすっかり晴れてしまいました。(笑) しかし頑張って朝一番で会場へ向かってみると、あのフェルメールにしては予想外に待ち行列は短く、館内も殆どがらがら…昔大阪では土砂降りの中一時間半も待たされたのに、この差は一体…(^^;)
 そんなわけでちょっと拍子抜けしつつも、おかげでお目当てのフェルメール七点もゆっくりじっくり心行くまで堪能できて、大変ラッキーでした。実物に接してみると初期の作風が随分違っていて驚きでしたが、特に「手紙を書く婦人と召使い」や「リュートを調弦する女」のやわらかい光と空気の肌合いまで感じられそうなタッチはまさしくフェルメールならではで、色合いや題材はむしろ渋めなんだけれどいつまで見ていても飽きが来ない不思議な魅力があります。「絵画芸術」が中止になってしまったのは残念でしたけれど、これからも年に1点ずつでいいから来てほしいですね。(←いやそれもかなり欲張りだから)

 それにしても、フェルメールの絵は一見地味そうに見えながら、実は登場する女性たちの服装や宝飾品がなかなか豪華で、一応女性としては見逃せないところです。(笑) 真珠の耳飾や首飾りはもちろん、さりげなく?つけているブローチなども(つくりはシンプルですが)結構お高そうで、王侯貴族の肖像画ほどではないにせよ、当時のオランダの豊かさが何となく想像できる気がしました。レンブラントの絵にも時々そんなものがありましたが、女性の美しさではフェルメールの方に魅力を感じますね。

P.S
 そうそう、忘れてましたが今回、デ・ホーホのコーナーで床を市松模様にしていましたね。ちょっぴり当時の室内の雰囲気が味わえて、粋な演出でした。(逆にフェルメールが数少なかったら、フェルメールでやってくれたのかな?)
 また、フェルメールの全作品を原寸大復元で全部並べていたのも、とても判りやすくて面白かったです。ただ大阪で見た「聖プラクセデス」は今回リストに入ってなかったので、これで今まで見た作品は合計15点になりますが、また違う作品も来てほしいですねー。(特に「デルフトの眺望」、あれは是非一度見たい!)

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幸せな人か、それとも

 2008/09/19(Fri)
 というわけで(?)、またまたしつこく(^^;)酒井抱一です。

 抱一はその作品のみならず、彼自身の特異な生涯にも興味を持たれる人らしく、しかもなまじっか大名家の生まれでしかもその身分をあっさり(?)放り出して画家として成功しただけに、気ままな人生を送った羨ましい人、というイメージが一般的なようです。私も以前はそう思っていたのですが、お馴染み玉蟲敏子氏の「都市のなかの絵―酒井抱一の絵事とその遺響」で実は出家の際に色々ごたごたがあったらしいという話を初めて知って、ちょっと驚きました。今回「もっと知りたい酒井抱一」にもコラム「不本意な出家とその理由」で取り上げられていますが、例の鏑木清方の三幅対絵から抱一だけを紹介したのも、そういうお気楽な遊び人(笑)のイメージを敢えて否定しようとしてのことかもしれませんね。

 またもうひとつ、作家丸谷才一氏が、著作の中で抱一に触れて以下のように書いていたことがあります。


「個人の才もあらうし、時代の性格もあらうが、とにかく、日本の歴史のなかでこれほどおつとりとめでたく、風雅に遊ぶ自由を得た人はゐない。この際、あれでもうすこし苦労してゐれば抱一の絵や俳諧の格がもう一つあがつたらうなどと憎まれ口をきくのは余計なことで、われわれはただ彼の境遇を羨み、ほんのちよつぴり嫉妬すればそれでよいのである。」(『日本の色』朝日選書)


 短い一文ながら、酒井抱一という人物のイメージを実に心憎いほど的確に描写した名文句で、まさにこういった「幸せな画家」であったと長年信じられてきていたのでしょう。事実抱一の描く華やかで優美な琳派の世界はそれにふさわしいものでしたし、遁世したとはいえまさか光琳のように借金苦に追われることもなかったはずで、何より彼自身絵師として世間に認められたことを少なからず誇りに思っていたようですから、幸せでなかったとは言いません。
 とはいえ、たとえ生活苦にこそ縁がなかったとしても、本当に抱一の人生は何の苦労も悩みもない幸せなだけの単純なものだったのでしょうか?
 研究者でも何でもない素人の私には想像するしかできませんが、数ある抱一の作品の中でも「夏秋草図屏風」のように嫋々と哀切な憂いを感じさせる絵を見ると、決して単純なセンチメンタリズムなどだけではあんな世界は描けないのではないだろうか、という気がします。澁澤龍彦に「日本の四季の草花がこんなに美しいものか、こんなに悲しいほど美しく透明であってよいものか、といった理不尽な思いに私たちを誘いこむばかりの魅惑にみちている」(『澁澤龍彦空想美術館』平凡社)とまで言わせたあの絵は、恐らくはそれを描いた絵師の心そのものを映し出したものでもあったでしょうし、そんな宗達や光琳には感じられない哀しみのようなものをふと垣間見るからこそ、私は抱一が好きなのかもしれません。(少なくとも作品だけを見るなら、一番幸せな画家だったろうと感じるのは断然宗達です) 「夏秋草図」の製作は酒井家の婚礼を祝ったものとする説もありますが、それよりも玉蟲氏が以前挙げた「光琳への追慕をこめた作品」説が素直に頷けたのも、同じくあの優美な中にも憂愁漂う気配がそれに似つかわしく感じたからでしょう。

 何にせよ、今度の大琳派展でその「夏秋草図屏風」は全期間中展示ということなので、それはもうぜひとも毎週会いに行かねば!(笑)と今から大変楽しみです。また銀屏風作品ではしばらく揃ったことのない「紅白梅図屏風」「波図屏風」も出てくれないかと期待しているので、早く展示一覧を出してください東博さん!

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もっと知りたい抱一さん

 2008/09/17(Wed)
 というわけで、本日の話題も引き続き「もっと知りたい酒井抱一」です。

 今回まず目を引いたのが冒頭で、抱一が暮らした場所を「江戸名所之絵」で示すという面白い趣向から始まっています。生涯の殆どを江戸で過ごした抱一ですが、人生の節目節目で随分あちらこちらと移動していたようで、紹介されていただけでも全部で九ヶ所ありました。考えてみると生年月日と生まれた場所まで正確に判っているのは、やはり大名家の息男ならではですよね。(光琳はともかく宗達に至っては、生没年すらまったく判らない有様ですし)
 で、そこではたと気付いたのですが、考えてみると、こういう抱一関連の場所で実際に行ったことがあるのは雨華庵のあった下谷根岸と出家した築地本願寺(お墓もあります)とこの前の向島百花園くらいなのです。特に酒井家時代のお屋敷関係は今まであまり関心がなかったのですが、地図で見てみるとこれが結構な広範囲に分散していて、何だか行ってみたくなってきてしまいました。…そのうち時間見つけて、江戸東京博物館で調べてこよう(笑)


  雨華庵跡
  (2007年8月、雨華庵跡にて)


 それにしても、今回の「もっと知りたい」琳派三冊を見ていて改めて思ったのですが、宗達・光琳・抱一・其一と並べてみると、若冲や蕭白などに見られるようなアクの強さが人気の昨今では、よく言えば繊細優美、悪く言えば無難すぎる(?)抱一はちょっと若者受けはしにくいかなあという気がします。まあ私としてはそんなところが好きなのですが、近頃は琳派の三人目の巨匠として復権しつつあるということですし、何より代表作の大半が日本国内に留まっているのがありがたいですね。
 ともあれ今回は海外コレクションも色々紹介されていましたが、中でも殆どお目にかかる機会のないファインバーグコレクションは最近十二ヶ月花鳥図も出てきたそうで、目下一番気になる個人コレクションです。あれも一昨年のバークやプライスのように、一度まとめて里帰り展やってくれるといいんですけどねえ…

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もっと知りたい琳派

 2008/09/16(Tue)
 先週発売の「もっと知りたい」シリーズ琳派三部作、本日やっと地元の書店に入ったので早速買ってきました。最初は抱一さんだけにしようかとも思ったのですが、まあこの際だしと思い切って三冊とも購入、ざっと目を通してみましたが、いや内容濃い上に美しいですね! 特に抱一はさすが玉蟲敏子氏が手がけただけあって、絵画作品だけでなく俳句や抱一の生涯・境遇・人間関係まで幅広くしかも判りやすく紹介していて、久々に大変読み応えのある一冊でした。思えばそもそも10年以上前に「夏秋草図屏風 追憶の銀色」を読んだのが抱一の追っかけを始めたきっかけでしたが、やっぱり玉蟲さんの著書は一際抱一への愛が感じられて(笑)ファンとしても嬉しいです。


  
もっと知りたい酒井抱一もっと知りたい酒井抱一-生涯と作品
(2008/09)
玉蟲 敏子

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夏秋草図屏風-追憶の銀色-
(1994/01)
玉蟲 敏子

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  (こうして見ると、表紙も2冊で左右対になっているのですね。^^)


 ところで今回、「もっと知りたい俵屋宗達」で個人的に大変嬉しかったのが、辻邦生の名作「嵯峨野明月記」を紹介してくれていたことでした。元々辻氏の小説は「背教者ユリアヌス」くらいしか知らなくて(しかも最初は藤原定家の話かと思ってしまった…)、二、三年前たまたま図書館で目について借りたのですが、いや読み始めて驚きましたね。うわー、この人こんな通な話書くんだー!(笑)と大感激、特に際立って個性的な宗達がとても面白い小説でした。
 なおついでながら、尾形光琳を取り上げたものでは「兄は光琳」(川浪春香著、編集工房ノア)、酒井抱一が登場するものでは「姫路城凍って寒からず」(寺林峻、PHP研究所)という小説があります。特に「兄は光琳」は、最後の衝撃的なオチに「えええ!?」とびっくり仰天、忘れられない話でした。(しかもその頃まだ乾山を知らなかったので、おかげでしばらく刷り込みになってしまった…苦笑)

 そうそうもうひとつ、今回は大変珍しく、鏑木清方の描いた抱一像も掲載されていましたね。私も永青文庫で一度だけ偶然実物を見たことがありますが、しかしあの絵は三幅対の両脇を抜いてはちょっと意味がないと思います。だってせっかく綺麗どころのお姉さん二人を侍らせてるのに(笑)、抱一さんだけじゃ遊び人ぽさが薄れてしまいますよ、ねえ!

 ともあれ、今回三冊に目を通して改めて、来月の大琳派展が楽しみになってきました。その他にも山種、MOA、細見と来年まで琳派展が続きますし、この秋は琳派三昧ですね。(^^)


P.S
 今回「もっと知りたい」シリーズ3冊を購入すると、抽選で↓こんなものが当たるそうです。

  八橋クッキー1
  (八橋螺鈿蒔絵硯箱クッキー)

 実はつい先日、まったくの偶然で知人からお土産にもらったのですが、まさかこれがプレゼントだとは思いませんでした。(笑) しかしさすが東博グッズ、ちゃんと実物を撮影して作ったものらしく、小さいながらなかなかいい感じですよ。
 で、中はどうなってるかといいますと…

  さて中身は…?

 さすがに中の流水模様まで再現するのは無理だったようで、普通の缶でした。(残念)

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十五夜お月さん

 2008/09/15(Mon)
 さて、昨日はGOLD展を見終わった後、次の目的地六本木へ向かったのですが、何だかやけにお天気がよくてちょっと驚きました。「今日って一日曇りだって言わなかったっけ?」と首を傾げつつ、まさかねえと思いながら国立新美術館のマルガリータちゃんに会いに行き、ついでにサントリーの小袖展も駆け足で見てきたのですが、夕方再び外に出るとやっぱり(多少薄曇りですが)青空が見えている…これはもしかしていけるかも、というわけで、またとんぼ返りで今度は向島百花園へ飛んでいきました。

 結局百花園に着いたのは6時半過ぎで、さすがにあたりは大分暗くなっていましたが、空にはばっちりお月様も見えてまずまずの十五夜日和です。しかしよかったーと喜びながらうきうきと門をくぐり、綺麗な絵入りの行灯をたくさん灯した園内の風情に「おお風流♪」と思ったのもつかの間、次の瞬間目の前に開けたのは何と屋外ビヤガーデン(爆笑)…え、な、何ですかこれは!?


  080914_tukimi1.jpg
  (既に宴会モード突入?)


 いや、一応「お月見の会」というからにはもっと落ち着いた雰囲気を想像していたもので、正直かなり面食らいましたが、どうやらお客さんは大半がご近所の皆さんだったようです。ちなみに別な建物でお茶席もやっていたのですが、あいにくお茶の心得はまったくないので諦めました…残念。

 ともあれ、確かにこういうこぢんまりしたお庭でそう大げさなこともやらないかと納得しつつ、千尋もお腹すいてたので(笑)まずはへちま棚の下の席で茶飯をいただき、それから小一時間ほどゆっくり庭園散策を楽しんできました。さすが緑豊かな庭園だけあって、少し足を踏み入れると右も左も虫の大合唱でしたが、何しろ暗いので池の側はちょっと足元が怖かったですね。(苦笑)


  十五夜お月さん
  (ススキの上にぽちっと見えるのが月です。笑)


 ところで、お月見団子(?)を献納したのはご近所のお菓子屋さんだそうですが、これがやたらと巨大な団子でして、写真では判りにくいですがこれまたびっくりでした。何しろ大きさが団子どころかお饅頭よりも大きい、大きめのお餅としか思えないような物体がどーんと載せられていまして、他にも初めて見る人はやっぱり驚いていたようです。(笑) 鏡餅とまではいかないけれど、あんなお月見団子って私も初めて見ましたよ…(^^;)


  月見団子?

  (言問団子公式HPにアップの写真があります)

 ともあれ、抱一さんもこんな風にお月見や虫の声を楽しんだのかな~などと思いつつ、いつもとはちょっと違う十五夜さんを満喫してきました。たださすがに日没後はせっかくの萩トンネルも真っ暗でよく判らなかったので、花の咲いているうちにいずれまた行ってみたいですね。

 なお、百花園の開館時間は通常17時までですが、お月見の3日間は21時まで延長です。今日もこれから行けばまだ充分間に合いますが、お月様はさすがに見えないかな…?

P.S
 そうそう、遅まきながら毎年恒例細見美術館の琳派展、今年も開催するそうです。(^^) 今回のテーマは「花の協奏曲(コンチェルト)」だそうで、どんなラインナップで来るのかこれも楽しみですね。

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目がキンになりました(笑)

 2008/09/14(Sun)
 というわけで、夏休み中は混みそうなので避けていた科学博物館の「黄金の国ジパングとエル・ドラード」展、やっと今日行ってきました。最初看板で「目がキンになる」というキャッチコピーを見た時は正直「何て即物的な…(^^;)」と思ったのですが、いや確かにそのとおりでしたねあれは! 科博らしく大小様々の鉱石標本はもちろん、藤ノ木古墳の発掘品や大判小判、果ては北島選手のアテネ五輪金メダルまで(笑)、有名だけれど意外に実物を見たことのないものもたくさんで、予想以上に楽しく見応えのある内容でした。そして今回の呼び物のひとつ「金塊に触っちゃおうコーナー」も大人気でしたが、私としては延べ棒持ち上げ比べ体験の方が面白かったです。(同じ大きさのアルミは片手で楽々持てるのに、金は本当に重かった…;)

 ともあれ、今回は残念ながら場内は撮影禁止でしたので、代わりにこんな一枚を。

金のコーヒー

 何のことはない、コーヒーに金箔を浮かべただけなのですが、何だか面白かったのでつい注文してしまいました。(笑) 幸いレストランもまだお昼前で空いていたし、久しぶりに窓際の席から館内を見ながらのコーヒーブレイクもよかったです(^^)

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長年の疑問

 2008/09/14(Sun)
本日上野の科学博物館へ行く途中、お隣の西洋美術館のお庭を通りました。

萩
咲き始めの白萩

さるすべり
まだまだ元気、さるすべり

ハナゾノツクバネウツギ
殆ど咲きっぱなしの(笑)ハナゾノツクバネウツギ


…いつも不思議なのですが、どうして西洋美術館のお庭って、みんな白い花ばかりなんでしょう?
(ちなみにこの他、ムクゲの花もやっぱり白でした)
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明日は十五夜

 2008/09/13(Sat)
 ……だというのに、関東は今日・明日共に曇りか雨のようでがっくりです。えーん、せっかく久しぶりの向島百花園へお月見しに行こうと思ってたのに…(涙)
 ともあれ、8月は色々どたばたと忙しくて殆ど美術展へも行けなかったので、明日は一挙3展ばかり駆け回ってくる予定です。そして来月はいよいよ待望の大琳派展ですが、講演会どうかなー、今回は是非とも行きたいんだけど競争率高いだろうなー…(溜息)

参考リンク:
 東京お月見情報
 http://season.enjoytokyo.jp/tsukimi/
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