上村淳之展

 2008/03/15(Sat)
 日本橋三越で開催中の上村淳之展(3/4-16)、ウルビーノのヴィーナスと同日に行ってきました。何しろ三越はいつも会期が短いもので、遠方の人間には日程調整が辛いのですが、淳之さんの個展は随分久しぶりでしたし、行けて本当によかったです。今回はパリ展の帰国記念だそうで、あの余白をたっぷり取った絵があちらの人にどう思われるのかなあと少し気になったのですが、なかなか好評だったようでほっとしました。(笑)

 ところでそのパリ展、タイトルを「霧と月明かりの鳥たち」としたそうです。淳之さんの絵がもっぱら鳥中心なのはおなじみですけれど、霧と月明かりという言葉に「そういえばこの人、背景銀色の絵が多かったっけ」と今さらながらに思い当たりました。特に屏風作品は、プラチナ箔の上に薄い和紙を貼った銀地が独特のつや消し感の中に静謐な明るさを湛えていて、森閑としていながらも絵の中の風の音や葉のざわめきや鳥たちのさえずりが聴こえてくるような世界だといつも思います。同じ銀の世界を描いても、例えば私の大好きな酒井抱一の絵は装飾性の強い構図や理想化された美しい花鳥図ですけれど、淳之さんは見たままの自然をそのまま写し取っているような、そんな印象を受けました。

 ともあれ、シギやハトなどつぶらな目が可愛らしい鳥たちの絵が多い中で、昔淳之さんのお父さん(故上村松篁画伯)が描きたがっていたという白鷹の絵は、鋭い目をした鷹の凛々しさが一際印象的でした。しかし場内で放送していたVTRを見て驚いたのですが、淳之さんのお宅って実に263種1600羽もの鳥を飼育しているそうで、しかも鳥類保護連盟の研究所指定を受けている(!)というのだから、この方画家でなければ鳥類学者になってたんじゃないでしょうか。(笑) きっとあの生き生きとした鳥たちの絵も、そういう環境だからこそ生まれるんでしょうねえ…(それにしても凄い)

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ヴェネツィア女性のおしゃれ

 2008/03/13(Thu)
 前回ちらっと述べた塩野七生氏の「海の都の物語」、図書館で再確認してきました。塩野さんのお話は大好きで殆ど読破していますが、自宅に置き場がなくて文庫版しか持っていないのです…ははは。(「海の都…」も昔出ていたらしいけど、既に絶版なのでした)
ともあれ、そんなわけで今回は本文から、問題の部分をちょっと引用させていただきます。

 十五世紀は、髪を長くとき流し、リボンや網でまとめるのが支配的であった。それが十六世紀に入ると、髪を頭部高く結いあげるのが流行ってくる。髪飾りも宝石を散らしたりして、ますます豪華になる。種々の色の絹地でつくった変形のターバンも使われた。髪の色はブロンドが憧れの色で、頭部をくり 抜いた幅広の帽子から髪だけ外に出し、テラスに座ってそれを我慢強く陽にさらしてブロンドに近い色にする、男には絶対に理解不能な努力まで惜しまなかったのである。こうしてできた赤味をおびた金色は、「ヴェネツィア金髪」と呼ばれ、自然な金髪に不自由しないドイツの男たちまで賛美したというから、これまた理解不能な話である。だが、これも、自然の金髪が金属的で冷たい感じを与えるのに反して、「ヴェネツィア金髪」は、やわらかく官能的な感じを与えたためかもしれない。
(「海の都の物語」第七話・ヴェネツィアの女より)

 …何と言うか、一応は女の私にもこの努力ははっきりいって理解不能ですが(笑)、あの魅惑的なヴィーナス(のモデル)もこんな努力に日夜励んでいたとすると、愉快な話ですよね。ちなみにターバン云々という話でちょっと↓こちらも思い出したので、ついでに載せておきます。

  raphae1.jpg
  (ラファエロ「ラ・フォルナリーナ」)

 さらにその後、こんなくだりもありました。

 ヴェネツィアの娼婦は、同性愛防止のための対策として、乳房を丸出しにした姿で娼家の窓辺に立つことを、当局から許されていた。それは当然男たちの眼を引くから、貴族の夫人方までこぞってまねたのである。ヴェネツィアの女は、ティツィアーノやパオロ・ヴェロネーゼやティントレットの絵に見られるように、背は高いほうではないが肉づきは豊かで、ぽってりした官能的な体つきをしていたから、胸を広く開けた服は似合ったにちがいない。乳房を押しあげるためにコルセットを発明したのも、彼女たちであった。

 同性愛防止のためというのもよく判りませんが、今の感覚でもさすがに大胆というかあられもない話で、ここまでくるといっそあっぱれかもしれません。しかしこれで初めて知ったのですが、コルセットって腰を細くするのではなくて胸を高く見せるのが目的だったのですね。(笑)
 というわけで、当時の女性は本当に↓こんな感じだったのかな、という一枚。

  titian-flora.jpg
  (ティツィアーノ「フローラ」)
 ※参考リンク:サルヴァスタイル美術館フローラ解説

 ともあれ、これ以外にも有名なサン・マルコの獅子の由来に始まり、十字軍や個性派揃いの歴代元首(ドージェ)に実録ヴェニスの商人(笑)等々、色々興味深いエピソードが盛りだくさんで、ヴェネツィア初心者にも読みやすく楽しい歴史小説(?)です。ご存知ない方はぜひ一度、騙されたと思って読んでみて下さい。

 ところで最後にもうひとつ、これは宝飾品についての文章から、ちょっと意外なお話を。

 宝石は、首飾りや指輪として使われただけではない。飾り帯にも使われたし、厚地の服地に縫い込む使い方も流行っていた。イヤリングだけは、だいぶ後になってから流行しはじめたようである。サヌードの『日誌』の中の一五二五年十二月六日の箇所に、こんな記述がある。
「嘆かわしいことだ。黒人の習慣そのままに、金の小さな輪から大粒の真珠がさがったものを、耳からぶらさげている。そんなものをつけているのは、わたしの親族でも彼女一人だけで、わたしは大変に恥ずかしい想いをさせられた」

 もちろん、この後この耳飾りは爆発的流行となったそうですが、やっぱり↓こんな感じだったのでしょうか?(笑)

  earring.jpg
  (フェルメール「真珠の耳飾りの少女」)

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ウルビーノのヴィーナス 古代からルネサンス、美の女神の系譜

 2008/03/08(Sat)
ウルビーノ


というわけで、ご近所のルーヴル展もまだお預け中だというのに、待ちきれずに行ってきました。何しろ「ウルビーノのヴィーナス」といえば、昔から大好きな憧れの絵のひとつでしたから、その女神の来日とあっては見逃すわけには行きません。幸い今日は最初の週末の割には出足もゆっくりめだったようで、10時過ぎに着いても比較的ゆったりと観覧することができました。

さてそのヴィーナスですが、いやもう何と言うか、実物の迫力というものにあれだけ圧倒されたのは久しぶりです。なまじ画集などで事前に知っていたものの、本物の凄さはやはり間近に接してこそのもので、しばらく足が釘付けで動けませんでしたね。引き込まれるような妖しいまなざしの魅力もさることながら、特に女神の肌の美しいことといったら、触れればそのなめらかさやぬくもりさえ感じられるのではないかと思うほどでした。(そしてこの絵が凄すぎたのか、大変申し訳ないことに他の絵は殆ど印象に残ってません。^^;)

しかし、そうやって惚れ惚れと見とれている最中にふと、あれっと思ったことがひとつありました。
ティツィアーノの女性像は今までいくつか見てきましたが、このウルビーノのヴィーナスはどうもこう、率直に言って他の豊満な美女たちに比べてふくよかさが少し控えめかなあ、と感じたのです。(特にウエストの辺りが。笑) 2006年にプラド展で見た「ヴィーナスとオルガン奏者」のヴィーナスは大変肉付きよく、いっそ堂々とした貫禄さえありましたし、その他にも「フローラ」「サロメ」等、着衣の女性像も見るからにふっくらぽっちゃりな絵が多かったのに、ウルビーノのヴィーナスは身体つきや顔立ちも心もちほっそりとしているように見えるのですよね。(といっても今の基準では充分ふくよかですが) これはモデルの違いなのか、はたまたお手本になったというジョルジョーネの「眠れるヴィーナス」の影響なのか、としばし考え込んでしまいました。

ところで、本日の「美の巨人たち」ではヴェネツィアの高級娼婦(コルティジャーナ)が出てきましたが、それで思い出したのが塩野七生の「海の都の物語」です。この中のヴェネツィアの女性をテーマに取り上げた章に書いていた話だったと思うのですが、彼女たちの赤味がかった金髪は生まれつきのものではなく、わざと太陽に晒して(いうなれば脱色?して)あのような色にしているのだそうです。言われてみれば「ウルビーノのヴィーナス」も北欧系の冷たい光沢のある金髪ではなく、赤と金茶の中間のような濃い色のつややかな髪で、しかもきっちり結い上げたのではなくカールした房が肩にふっさりとかかっているのがまた実に綺麗でした。あの絵のモデルはコルティジャーナではないかという説もあるそうですが、私としては頷ける気がします。

というわけで、参考までに塩野さんの以下の2冊+αをご紹介。

 ・「海の都の物語(上)
 ・「海の都の物語(下)
 ・「黄金のローマ」(注・三部作の完結編。ヒロインがコルティジャーナ)

なお「黄金のローマ」の表紙はそのものずばり、「ウルビーノのヴィーナス」です。(^^)

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ようこそ☆おもしろ美術館!日本画で国語・算数・理科・社会

 2008/03/02(Sun)
本日は久しぶりに、高崎市タワー美術館へただ今開催中の所蔵品展を見に行ってきました。
ここは展示スペースこそこぢんまりと可愛らしい美術館ですが、コレクションも可愛らしいかというと、これがなかなか侮れません。今回の出品リストをざっと見ただけでも、酒井抱一、鈴木其一、中村芳中、岡田(冷泉)為恭、小林古径、菱田春草、横山大観、狩野芳崖、前田青邨、土田麦僊、竹内栖鳳、川合玉堂、小茂田青樹、川端龍子、奥村土牛、上村松園・松篁、中島千波etc. これ本当に全部所蔵品!?と驚くような錚々たる顔ぶれなのですね。まあ確かに大半は小品ですけれども、地方在住者にとって東京まで出かけていかなくてもこういうものに気軽に接する機会があるというのは、大変貴重で嬉しいものです。(^^)

さて、今回のお目当ては例によって抱一だったのですが、どうもこう、問題の「春野之図(しゅんやのず)」は抱一にしては失礼ながら何だか画面がごちゃごちゃしているというかまとまりがないというか、今ひとつ抱一らしくないという印象を受けました。確かにタッチは決して下手ではありませんが、いつもの余白をたっぷり取って花や枝の配置に繊細な気配りを見せる抱一の構図ではないという気がしたのです。むしろ今回も弟子の其一の作品の方が目を引かれたくらいで(^^;)、こちらは寝殿造の軒先に咲く白い桜を品よく描いてすっきりとまとまった、やはり抱一の影響をまだ強く受けていた頃の絵かなと感じました。

ともあれ、他にも春草や松園など好きな画家の作品がたくさんあって、特に中島千波の屏風絵「夢殿の枝垂桜」は人気投票でも大変好評でした。また東山魁夷の「暁雲」も、殆どモノクロに近い押さえた色調が深山幽谷の森閑とした情景を絶妙に描いていて、やっぱりどの絵を見ても心惹かれる画家ですね。今月からは国立近代美術館で生誕100年展も始まることですし、久しぶりに大好きな「緑響く」を始め「道」「花明かり」「冬華」「残照」等の名作に会えるそうなので、大変楽しみです。(^^)

関連リンク:
「高崎市タワー美術館」(展覧会案内に抱一作「春野之図」あり)
http://www.city.takasaki.gunma.jp/soshiki/art_museum/t/index.htm
「東京国立近代美術館」
http://www.momat.go.jp/index-jpn.html

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読売新聞からのお知らせ

 2008/03/01(Sat)
先日職場に読売新聞から2008年の展覧会カレンダーが届きまして、これ幸いと一部いただいてきました。今のところ確実に行く予定なのは「ウルビーノのヴィーナス」(国立西洋美術館、3/4-5/18)と「大琳派展」(東京国立博物館、10/7-11/16)の二つですが、余裕があれば「国宝薬師寺展」(東京国立博物館、3/25-6/8)や「ダーウィン展」(国立科学博物館、3/18-6/22)も行ってみたいです。しかし今年は何やら、同じ美術展にリピーターで通う回数が増えそうですねー。(^^;)

さて、目下最大注目の大琳派展はといえば、俵屋宗達、本阿弥光悦、尾形光琳、尾形乾山、酒井抱一、鈴木其一の6人を中心に、彼らの代表作を一堂に集めるというコンセプトだそうです。目下の段階では宗達作「風神雷神図屏風」(建仁寺)と光琳作「燕子花図屏風」(根津美術館)が出展確定で、それ以外でも写真掲載されていた光琳作「風神雷神図屏風」を始め、抱一作「夏秋草図屏風」以下、東博手持ちの所蔵品はほぼ勢揃いするでしょうから、それだけでも滅多にない機会で期待が膨らみますね。(ただ其一の代表作って何だろうと一瞬思ったんですが、やっぱり根津の夏秋渓流図屏風とか?)

ところで、光琳の二大国宝屏風が果たして両方出るかどうかも気になりますが、それ以外でこの機会にやってほしいことは何だろう、と改めて考えてみて、何だかぞろぞろ思いついてしまいました。(笑) というわけで、我ながら欲張ったラインナップですがついでに書いておきます。(太字は出展確定、リンクは各所蔵館サイト提供ページ)


 ◆一緒に見てみたい作品◆
  ・光琳「燕子花図屏風」(根津美術館)&「紅白梅図屏風」(MOA美術館)
  ・光琳「紅白梅図屏風」&抱一「白地梅樹文描絵小袖」(歴博)&野々村仁清「色絵月梅図茶壷」(東博)
  ・光琳「紅白梅図屏風」&抱一「紅白梅図屏風」(出光・サンリツ)
  ・光琳「白綾地秋草模様小袖(冬木小袖)」(東博)&抱一「白地梅樹文描絵小袖」
  ・光琳「波濤図屏風」(メトロポリタン)&抱一「波図屏風」(静嘉堂)
  ・光琳「燕子花図屏風」&光琳「八橋図屏風」(メトロポリタン)&抱一「八橋図屏風」(出光)&光琳「八橋螺鈿蒔絵硯箱」(東博)
  ・光琳「風神雷神図屏風」(東博)&抱一「夏秋草図屏風」(東博)※表裏同時展示で!
  ・抱一「夏秋草図屏風」本体(東博)&下絵(出光)

 ◆一挙展示希望品◆
  ・光琳「百人一首かるた」
  ・抱一「十二ヶ月花鳥図」(畠山、香雪、ファインバーグ、綾瀬賛)


…何やら「対決日本美術・琳派編」みたいになってしまいました。以上の作品は大半がそれぞれ個別で見たことはありますが、なかなか同時に見比べる機会というのはないので、書き出してみて自分でもちょっとわくわくしてしまいましたね。
まあ今回全部実現というのはさすがに不可能としても、最近は海外コレクションの里帰り展も多いので、いずれファインバーグやギッターもやってくれないかなと期待しています。それに千葉市美術館でも近いうちに抱一展をやる予定だというし、3年後は抱一生誕250周年でもあるから、今のうちから各方面にリクエストしておいてみようかなあ?(^^)

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