追憶の月光と踊る朝顔

 2016/10/01(Sat)
 今年は年度初めから仕事がてんやわんやで、ただでさえ賀茂斎院にかまけていたこともあってすっかり美術展レポもご無沙汰中です。美術展自体はせっせと回っているのですが、今年は本当に回るだけで精一杯で、もうしばらくは休止状態が続きそうですがご容赦くださいませ。

 さて9月21日から、上野の東京国立博物館にて酒井抱一の「夏秋草図屏風」が公開中です。
 東博での公開は3年ぶりとなるものの、昨年の琳派イヤーでは京博琳派展に出張していたので、千尋にとっては約1年ぶりの再会です。京博の1回目でも閉館直前の10分間ほど独り占めでしたが、今日は20時まで延長開館だったおかげで、19時以降はほぼ無人の大変贅沢な状態で心行くまで堪能してきました。大好きな絵画は古今東西たくさんありますが、「夏秋草図」は時間さえ許せばいつまででも見ていたい作品です。


2016年夏秋草図
今回は真っ平らな状態での展示でした。


 そしてサントリー美術館では9月10日から、抱一さんの一番弟子こと鈴木其一の回顧展を開催中です。こちらも早速初日に足を運び、冒頭にまず師匠である抱一さんの作品、しかもこれまた大好きな「白蓮図」が出ていたのに大喜びでした。あの掛け軸も抱一作品ではベスト3に数えているお気に入りなので、去年に続き今年も会えて嬉しかったです。 
 それはともかく、肝心の其一ご本人ですが、初めて見る作品が予想以上に多く、何だか其一のイメージが大分変わった気になる素晴らしい内容でした。
 大作の屏風を始め掛け軸、襖絵、扇面、さらには羽子板や絵馬と実に多彩な種類が揃っており、中でも特に惹かれたのは、雛道具として作られたらしいミニチュアの掛け軸でした。まさにお雛様サイズで、これがまた小さいのにとても丁寧で大変に可愛らしいのです。思えば其一作のミニ巻物は前にも見たことがありますし、師匠の抱一さんが描いたミニ屏風や草紙も知っていましたが、あのくらいのサイズなら自宅にも置けそうなせいか本気で欲しくなってしまいました(ちなみに千尋は何を隠そう、ドールハウス大好き人間です。笑)


2016鈴木其一展


 ともあれ、其一の其一らしい(と私が勝手に思っている)作品については、個人的に結構好き嫌いが別れるため、抱一さんほど好みとは言えないのが正直なところです。今回久々にメトロポリタンから里帰りの「朝顔図屏風」は大好きですが、根津美術館所蔵の「夏秋渓流図屏風」はちょっとどぎつく感じる色彩が苦手なのですよね。
 とはいえ、彼自身の画風が確立された後のあのシャープでモダンな独特の味わいは、好き嫌いはまた別としても面白いですし、朝顔以外にもいいなと思う絵は色々あります。細見美術館所蔵の黒楽茶碗と白椿の掛け軸は、タッチはいかにも琳派なのですが、すっきりと端正な佇まいがまさに其一らしくてお気に入りの絵の一つですね(今回他にも白椿を描いた作品があり、どうやら彼の好きな花だったようです)。だから抱一さんの抒情的な優美さとは異なるものの、絵のセンスは決して嫌いではないのですが(むしろ抱一さんと同じだったら面白くないでしょう)、ただ若冲の場合と同じで、色彩がビビッド過ぎるとちょっと苦手だなとも思ってしまうのでした。

 ところでそういえば、関連書籍に以前取り上げた『麗しき果実』があるかなと期待していたのですが、今回売店にはありませんでした。最近時代小説でも絵師を題材にした作品が増えていますが、其一を取り上げたものは大変珍しい(もしかして唯一?)ですし、作中で描かれた其一の人物像も千尋にはイメージに合っていると感じられたので、ちょっと残念です(個人的には前から何だかとっても真面目そうな人だなと何となく思っていたのですが、解説によると当たりだったようです。笑)。

 さて最後に、明日の日曜美術館ではその鈴木其一が登場です。しかも「幕末の異端児」なんて言われてしまってますが、とはいえ其一の場合、若冲や蕭白ほどエキセントリックではないと思うんですけどねえ(笑)

関連過去ログ:
 ・「麗しき果実 酒井抱一と根岸の里

スポンサーサイト
タグ :

琳派400年(番外) 400年目の同窓会・美の巨人たち

 2015/11/24(Tue)
 10月の「美の巨人たち」は、4週連続琳派尽くしという豪華なスペシャルシリーズでした。
 まず本阿弥光悦の「舟橋蒔絵硯箱」、続いて光悦・俵屋宗達の「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」、さらにもう一つ宗達の「養源院杉戸絵」で、最後が酒井抱一の「夏秋草図屏風」です。何故か今回は尾形光琳が入っていませんでしたが、多分京都国立博物館の琳派展と合わせての内容ということで、そこに出ていない二大国宝の「燕子花図屏風」「紅白梅図屏風」は入れられなかったのでしょうね。

 さて、今回ちょっと驚いたのが、お馴染み大好きな抱一さんの「夏秋草図屏風」(10/31放送)です。
 以前にもここでご紹介しましたが、この作品は既に2010年の夏、美の巨人たちで取り上げられています。一度扱った作品が再登場というのもあまり聞きませんが、どうするのかなと思っていたら内容も完全な新作で再び驚きました。
 さらに前回は単独の扱いということもあり、光琳の「風神雷神図」との関連に留まる紹介でしたが、今回は琳派シリーズの最終回とあって、ドラマ部分は何と光悦・宗達・光琳・抱一の四人が現代に集まった同窓会という、珍しくも愉快な内容となっていました。最初に「琳派」と聞いて、宗達が「『光琳派』ってこと?」と尋ねると、「めめめ、滅相もない!!」と慌てふためく光琳が意外に?控えめだったり、かと思えば最初は「宗達・光琳派」だったと聞いて「そもそも、わしの名前が入っとらん!」と不満そうな光悦がやけに偉そうだったりというのも面白かったです。
 ちなみに抱一さんに扮したのは橋爪淳さんで、わざわざお髭を剃って、もちろん坊主頭(これは特殊メイク)でのご登場です。イメージは番組中でもたびたび出てきた鏑木清方作の肖像(もちろん想像ですが)でしょう、湊鼠のすっきりとした着流し姿が粋なたたずまいでした。

 さて内容は、記念すべき「第一回琳派サミット」(笑)において、抱一さんに対して他の三人がそれぞれ「夏秋草図」について質問するという形を取っています。

 ・光琳「何故、自分の「風神雷神図」の裏に描いたのか?」
 ・宗達「何故、草花を描いたのか?」
 ・光悦「何故、金地ではなく銀地だったのか?」

 これに対して、そもそもは(恐らく)当時光琳作「風神雷神図」を所蔵していた一橋治済(はるさだ)の依頼であったこと、風神に対して秋の風・雷神に対して夏の雨、天上の神々に地上の草花を対比させていたことを説明しつつ、抱一さんの生涯が合わせて語られていきます。もちろん抱一さんの熱烈な光琳追っかけぶりもばっちり紹介され、それに照れまくる光琳もおかしかったですね。
 さらに今回もお馴染み玉蟲敏子先生の解説が加わって、「銀地は月の光を表し、引いては亡き人を追慕するものである」ことが明かされますが、ここで面白かったのが琳派サミットの面々。「誰を追慕しているのか…もう、おわかりですよね?」という小林薫さんのナレーションに、宗達と光悦が「はて、一体誰を…?」「まったくわからん」と首を傾げると、その隣で光琳が肩を震わせ感涙に咽んで?いるのです。(笑) 光悦・宗達コンビは「ええー!? 光琳殿ー!?」と驚いていましたが、やっぱりここでも何だか光琳が妙に可愛くて笑ってしまいました。

 ところでこの琳派サミット、司会は「抱一の弟子」だという青年が勤めていたのですが、最後に彼が鈴木其一であったことが明かされました。番組で紹介された根津美術館所蔵の「夏秋渓流図」は京都の琳派展でも登場しており、師匠の抱一さんとはまた別の持ち味を発揮していった人ですが、やはり彼こそ抱一の一番弟子であると同時に、真の意味で琳派の後継者の一人でもあったと言っていいでしょう。劇中ではかなり若い頃の感じで、何だか初々しい雰囲気なのがやっぱりちょっと可愛かったです。

夏秋草図屏風(2013)
(2013年・東京国立博物館にて撮影)


 番組で登場した「夏秋草図」の映像は、京都国立博物館の特別展会場で撮影したもののようです。千尋は放送前に先に現地で見てきましたが、夏秋草図の展示場所は手前のガラスの繋ぎ目が微妙に両端に引っかかる感じで、何となく気になっていたのですね。
 とはいえ幸い最初の週末ということもあってか、閉館10分前には殆ど人もいなくなり、おかげさまで久々に独り占め状態でたっぷりと堪能させていただきました。東京でも何度も見ている作品ですが、やっぱり何度見ても惚れ惚れする美しさです。

タグ :

琳派400年(番外編) 屏風と装丁

 2015/06/26(Fri)
 以前、酒井抱一の絵を装丁に使った本をいくつかご紹介しましたが、最近また書店やネットで目についたものがありました。というわけで、どちらも中身は直接関係ないと思われる本ですが、ご参考までに紹介いたします。


 
 『平安朝物語の形成』後藤幸良(笠間書店、2008/12)


 
 『大和魂の精神史』島内景二(ウェッジ、2015/03)


 どちらも「夏秋草図屏風」の「秋草図」を使った表紙で、よく似ています。
 このうち『大和魂の精神史』は最近出たばかりの本なので、書店で実物を見かけました。おお、抱一さんだと思わず手に取り、いつ出たのかなと奥付を見ようとして何の気なしにひっくり返し、次の瞬間驚きました。
 何と、裏表紙には尾形光琳の「風神雷神図屏風」の風神がいたのです(!)。
 抱一さんの絵を使った装丁は今まで結構見てきましたし、他の画家の絵と組み合わせたものもありますが、元々表裏に描かれた「風神雷神図」「夏秋草図」を一緒に使った装丁は、美術関連の本以外では珍しいのではないでしょうか。しかも秋草の裏にはそれに呼応した風神をあしらっているのですから、この装丁を手がけた方は間違いなく元々の屏風がどんなものかをご存知なのでしょう。なるほど、本の装丁だとこういう粋な使い方もあるのかと、ちょっと嬉しくなった1冊でした。

 ところでその抱一さんですが、先日「鳥獣戯画展」で東京国立博物館を訪れた際、本館の売店で素晴らしいものを発見しました。

 何と何と、光琳の「風神雷神図」と抱一の「夏秋草図」を本来の姿そのままに、表裏一体で作ったミニチュア屏風があったのです!


風神雷神図・夏秋草図
光琳筆「風神雷神図」・抱一筆「夏秋草図」両面屏風


 元々「風神雷神図」と「夏秋草図」のミニチュア屏風はそれぞれ単独で売られていましたが、今回は琳派四百年記念にあたって特別に製作されたということでした。いやもう、見た瞬間飛び上がり、すぐさまレジへ直行したのは言うまでもありません。そうですよ、こういう本来の「裏屏風」として見られる「夏秋草図」が欲しかったんですよ!!
 というわけで、このミニチュア屏風は制作会社HPのオンラインショップでも販売しています。興味のある方は、以下リンクからどうぞ。

 便利堂:「風神雷神図・夏秋草図両面屏風

 ちなみに酒井抱一関連の美術館グッズは他にも「四季花鳥図絵巻」のミニチュア等色々ありますが、特にコレクターズアイテム?としてお勧めのうちのひとつが、静嘉堂文庫美術館のクリアファイルです。
 同館所蔵の抱一作「絵手鑑」をモチーフにしたものなのですが、何とこの冊子に載っている72点の絵すべてを全画面に配した、抱一ファンには実に嬉しいグッズなのですね。この「絵手鑑」の絵は代表的な数点が色紙等になっていますが、馴染みの薄い作品も多いので、ちょっとした画集代わりとしてもありがたいお買い得品です。

 なお、秋の京都琳派展では抱一の「夏秋草図屏風」も出展予定のようです。あの屏風はもう何度も見ていますが、京都で会えるのは今年が初めてなので、これまた楽しみですね。

 参考リンク:「琳派 京を彩る」(京都国立博物館公式サイト


 関連過去ログ:
  ・装丁あれこれ
  ・続・装丁あれこれ
  ・琳派の色
  ・典雅なる花鳥

タグ :

400年目のメモリアル

 2013/11/22(Fri)
 先日たまたま新聞記事を調べていた際、「琳派400年記念祭」なるものが企画進行中ということを知りました。

 公式サイトの説明によると、「光悦が家康から鷹峰の土地を拝領した元和元年(1615年)を琳派誕生の起点」として、来たる2015年に琳派誕生から400年を祝おうではありませんか、というプロジェクトのようです。具体的にどんなイベントがあるのかはまだ確定しているわけではなさそうですが、こうした企画がこんな早くから一般に情報発信されるのはなかなかないことですよね。もちろん、抱一大好きな琳派ファンとして千尋も大変楽しみです。

 ところでそういえば尾形光琳は2016年に没後300年を迎えるので、2015年はちょうど三百回忌ということになるわけです。しかもそれは抱一さんが執り行った光琳百回忌(1815)からちょうど200年後でもあるわけで、なるほどこれは確かに宗達・光琳・抱一という琳派三巨匠を繋ぐメモリアルイヤーでもあるのですね。
 そんなわけで今回の記念祭でも、光琳三百回忌法要を企画中らしく、また美術展やシンポジウムのみならずファッションショーや記念名所巡りなどのイベントも事業例として出ているので、一体どのくらい実現するのかわくわくします。中には「記念大河ドラマ」(!)なんてものまでありまして、さすがにNHKで丸1年という訳にはいかないでしょうが、かの名作『嵯峨野明月記』で2時間スペシャルくらいなら出来るかも…?


 

 辻邦生作『嵯峨野明月記』(中公文庫)琳派ファンなら見逃せない歴史ロマン。

タグ :

ようこそ琳派へ

 2013/09/21(Sat)
 今日は千葉市美術館で開催中の所蔵作品展「琳派・若冲と花鳥風月」(2013/8/27-9/23)と、前回に引き続き東京国立博物館の「秋の特別展」(2013/9/18-9/29)へ行ってきました。千葉市美術館も大変面白かったのですが、こちらは既に他のブロガーの皆様が色々書いてくださっているようですので、千尋は本日も夏秋草図情報です。

 まず今回、夕方4時近くに博物館へ着いて驚いたのですが、今日は毎年恒例「留学生の日」だったのですね。千尋はお間抜けにもすっかり見落としていたのですが、そんなわけで今日の開館時間は6時まで延長だったのでした。おかげさまで5時以降は大分館内も空いてきて、連休初日の土曜にもかかわらず随分ゆったり作品を鑑賞できました。(ちなみに来週28日も、コンサートで夜8時まで開館だそうです)

 そしてもうひとつ、これまた前回まったく気付かなかったのですが、大変なサプライズがありました。
 初日はとにかくひたすら夏秋草図しか眼中になく(笑)、おかげで他の展示も何も完全にすっ飛ばしていたのですが、今日たまたま買いたいグッズがあって売店コーナーに入ったところ、思いがけないものがありました。何と、「夏秋草図屏風」の実物大複製(!)が、レジの前にどーんと置かれていたのです。今までも半分の大きさのものはありましたが、今回は正真正銘本物と同じ大きさで、これにはさすがにびっくりしました。
 さらに驚いたことに、この複製は何と売り物でして、お値段も140万円(!!)とこれまた素晴らしく、お高いだけあって出来栄えも本物にかなり忠実なのです。オリジナルでは顔料の剥落している部分(特に右隻「夏草図」の中央部分)などは流石に元の姿を復元していましたが、逆にそれが元々はこんな感じだったのかな、と思われて、しばし感心して見とれました。

 とはいえ、所詮レプリカに過ぎないではないか、と思う方も多いでしょうが、個人的にこの複製の一番の見どころは「床の上に置いてある」ことでした。厳密には高さ10センチほどの台の上に載っているのですが、とはいえ畳の上で見るのとほぼ大差ない、つまり本来あるべき高さで鑑賞することができるのです。実を言えば、初日に本物を見た時にちょっと展示の位置が高すぎるなあと思っていたので、まさかこういう形で見られるとは思わず本当に驚きました。
 ちなみに夏秋草図の高さは約165センチだそうで、千尋は身長164センチですからほぼ同じくらいだということは知っていましたが、そうか、同じ高さから見るとこういう視点になるのか、と初めて実感できたのが何とも嬉しい衝撃でした。同時に思い出したのが以前BSの「極上美の饗宴」で玉蟲敏子先生が三渓園の建物で同じような複製を鑑賞していたことで、あんな素敵な環境で見られたらもっと素晴らしいだろうなあと、改めて玉蟲先生が羨ましかったです。
 ただ制作会社のスタッフさんに訊いたところ、この複製も例によって一般的な一曲二双屏風の置き方になっており、元々の裏屏風としての置き方は残念ながらできないのだそうです。えー、それが一番肝心な所なのにー!と少々がっかりしましたが、とはいえ大変貴重なものを見せてもらったのは事実で、おかげでしばしの間本物を見に行く足を止められてしまったほどでした。

 なおこの「夏秋草図屏風」の実物大複製は、東博開館140周年と制作会社の創業125周年を記念して作られたもので、売店での展示は特別公開の期間中のみだそうです。この機会を逃すと今後二度とこうした形では見られないかもしれないので、これから「秋の特別公開」で酒井抱一を見に行く方は、是非とも売店へも寄ってみてくださいね。

タグ :
≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫ 次ページへ ≫