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夢見る塔、再び ~ブリューゲル「バベルの塔」展~

 2017/06/18(Sun)
 こんにちは、大変ご無沙汰しております。
 ちょっと公私ともに色々ありまして、最近は美術展もややご無沙汰気味ですが、ご覧いただいている皆さまありがとうございます。

 さて6/11(月)、東京都美術館で開催中の「ブリューゲル「バベルの塔」展」(2017/4/18-7/2)へ行ってきました。

 今回の特別展のタイトルでもある「バベルの塔」は「24年ぶりの来日」と銘打たれていたとおり、今は亡き(苦笑)池袋セゾン美術館で1993年秋に開催された「ボイマンス美術館展」以来の登場です。この時のポスターのキャッチコピーは「人は何故塔を夢見るのか」で、千尋も初めて「バベルの塔」を見て大感激でしたが、あれからもう24年も経ったのか…と、改めて何とも言えない感慨を覚えました。
 とはいえ、その24年前の記憶は実のところ「案外小さな絵なんだな」という印象と「本物を見ちゃった!」という衝撃以外あまり残っていなかったのです。しかし今回改めて実物と向き合ってみて、画集で見るだけではわからないその緻密な迫力に改めて圧倒されました。

 この「バベルの塔」、繰り返しますが決して大きな絵ではないにもかかわらず、とにかくその描写の細かいこと、あの小さな面積に書き込まれた人物の数は実に1400人(!)に上るそうです。千尋も単眼鏡で絵を見ながら「…一体何人描かれているのかな?」と考えましたが、ちゃんと数えた方がいるのですね(笑)
 塔の構成は、ローマのコロセウムを思わせる巨大な層が全部で10段あり、下5層は完成していますが、上の5層は建造中です。(高さは推定約500mとのこと) 建造中の部分にはびっしりと足場が組まれてクレーンが部材を運んでおり、左側で漆喰を運んでいるところは零れた漆喰で白く、また下の層に比べて上の層の色は真新しいレンガの赤味が強調されている等、空想の絵とは思えないような徹底したリアリズムで描かれているのがわかります。またひとつひとつの窓?も皆同じようでいて、よく見るとどれも少しずつ違う風に描かれているのですね。(これは解説を聞くまで全然気がつきませんでした)
 ちなみに会場には、実物の3倍に拡大した東京芸術大学作成の複製画がありました。しかもその裏側の壁面にはさらに拡大した塔の一部が張り付けられていて、多分10倍以上はあるのではないかと思われますが、それでもまったく見劣りしないという凄さでした。

 ところで今回の美術展に合わせて、大友克洋氏が描いた「Inside Babel」が会場入り口脇に展示されており、これがまた圧巻の力作でした。オリジナルをトレースし、そこから塔の内部構造を想像してバームクーヘンの一部を切り取るように描いたもので、いや実にまさしくこんな感じだろう!という素晴らしさです。あれを見てしまったら、きっと誰もが「バベルの塔の内側はこうなんだ」と信じてしまうでしょうね。
 しかしその大友氏ですら、日曜美術館に出演された際には「描いてる途中で嫌になった」と苦笑していらっしゃいました。まったく千尋も今回改めて、あんな絵を描いたブリューゲルってどれだけマニアックだったの?(笑)と思ったものです。見ているだけでも気が遠くなりそうな絵というのは時々ありますが、緻密さに加えてスケールの大きさも兼ね備えた絵となると、ちょっと他に並ぶものはないかもしれないなと感じました。
 あと今回、会場内の映像コーナーの解説も大変わかりやすく面白かったです。塔の構造を3Dで再現しているだけでなく、人物やクレーンをアニメーションで動かしてみせる映像が愉快で、大きなスクリーンにアップで映すとますます本物があんな小さな作品だというのが嘘のようでした。これは本当にお勧めでしたので、これから見に行く方はぜひ映像解説も見て、それからもう一度本物をご覧になってくださいね。

 ところで、今回はブリューゲルの版画作品も色々とありましたが、最後に展示されていた戦艦の絵に何故かとても惹きつけられました。
 もともと千尋は帆船が大好きでして、絵画作品でも帆船が出てくると嬉しいのですが、あんな風に船を主役に(しかもアップで)描いた絵はあまり憶えがありません。加えてブリューゲルの作品で船というのはちょっと意外なようでもありますが、「バベルの塔」でも画面右下にたくさんの船が描かれていますし、ブリューゲルは海運の盛んなアントウェルペンに縁の深い画家ですから、そう思うと船が画題になるのは当然かもしれませんね。
 ともあれ、版画なので白黒で地味といえば地味な絵でしたが、硬質な線でやはり細部まで丁寧に描き込まれていて、バベルの塔以外では一番印象に残った作品でした。大きさも普通の家にも飾れそうなサイズで、ポストカードがあったらぜひ欲しかったのですが、グッズ売り場にはありませんでした…残念。
 なお今回はグッズ売り場もなかなか愉快で、バベルの塔型のシフォンケーキや、塔のように積み上げたハンカチにキャラメル等、ユニークな商品が多かったです。もっともハンカチは単体だと何のグッズかわかりませんが、キャラメルの箱は小さくて可愛かったので、思わずひとつ買ってしまいました。

 ところで、日曜美術館では大友氏の世界と絡めて紹介されていましたが、改めて「バベルの塔」を見ていてふとジブリの「天空の城ラピュタ」を思い出しました。空に浮かぶ半ば廃墟となったラピュタの姿も、思えばブリューゲルのバベルの塔にちょっと似ていますよね。(あの背景美術も圧巻でした…)

ブリューゲル バベルの塔2017
会場内撮影コーナーにて。バベルの塔は東京タワーより高い!?

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琳派400年(6) 華麗なる季節・山種美術館「琳派と秋の彩り」

 2015/11/20(Fri)
 今年の琳派四百年記念イヤーもそろそろ終盤ですが、今週はNHKの「歴史秘話ヒストリア」が尾形光琳で、チェックしそびれていた千尋はたまたまチャンネルを回してびっくり仰天しました。全編ドラマ仕立てというわけにはいかない関係もあって諸々端折られてはいましたが、光琳視点というのは思えば初めてで面白かったです。なおドラマ仕立てと言えば「美の巨人たち」でもちょっと意表を突く演出があってこれまた大変愉快だったので、その話はまたいずれ。

 さて、9月26日(土)と10月24日(土)の2回、山種美術館で開催の「琳派と秋の彩り」(2015/9/1-10/25)へ行ってきました。

 山種美術館さんも琳派作品を色々所蔵していらっしゃるところで、とりわけ酒井抱一好きには嬉しい美術館の一つです。今回もお馴染み「秋草鶉図屏風」がポスターやチラシになっていて、図録の表紙にも「菊小禽図」が使われるなど、まさに抱一が主役!という感じでした。

 なお今回は光琳はありませんでしたが、光悦・宗達は所蔵品の和歌短冊や槙楓図屏風に加えて、個人蔵の貴重な作品もたくさん出品されていました。また抱一作品も、2011年の大回顧展で見た「仁徳帝・雁樵夫・紅葉牧童図」や「寿老・春秋七草図」等のあまり見る機会のない三幅対やその下絵もあって、数そのものは琳派関連で30点弱ながらとても見応えのある内容でした。

 さて今回、一番面白かったのが抱一さんの「仁徳帝」の下絵でした。
 構図は三幅対の完成作と全く一緒で、他にも同じような作品があるそうですが、仁徳帝の側に控える女官?の衣装の柄が下絵と完成作では違うのです。まあそもそも仁徳帝の時代に平安の女房装束は明らかに変なのですが(笑)、下絵では裳の柄は松林なのに、完成作の方はかの「夏秋草図屏風」を思わせる群青の流れが小さいながらしっかり描き込まれていました。
 また下絵の御簾には「スシ(筋)金」と書き込みがあり、確かに完成作では緑の地に細い金泥の線が丁寧に書かれていて、小さな部分なのに非常に丁寧に細部まで手を抜かずに描いてあるのです。もっとも下絵に指示書き?があるということは、そうした単純な部分は弟子にアシスタントをさせたのかもしれませんね。

 ちなみに女房の裳に描かれた水流や、寿老人の衣の襟、秋草の朝顔の花などはやはりいい顔料を使って描いたものらしく、少し角度を変えて見ると、ごく小さな部分なのに照明で群青がきらきら光っているのがはっきりわかりました。以前千葉市美術館で初めて見た時はびっくりしましたが、あの群青色は本当に綺麗で、何度見ても惚れ惚れします。

 それにしても、抱一さんの絵は宗達や光琳と比べても独特の何ともいえない典雅な気品を湛えていて、こういう点が女性ファンの多い由縁なんだろうなといつも思います。春秋七草の春の絵など、抱一さんの手にかかるとペンペン草ですら優雅に見えてしまうのですよね(笑)。

 ともあれ、今年訪れた琳派展は他にもサントリーの乾山展、京都国立博物館の琳派展、京都国立近代美術館の琳派イメージ展、そして静嘉堂の金銀展と、まだまだレポートを書かなければいけないものが盛り沢山でちょっと大変です。何とか今年中に一通り書いておきたいと思うのですが、京都の国立博物館・国立近代美術館は共に11/23で終了ですので、見逃している方はどうぞお早めに。

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琳派400年(5) 都の琳派コレクション「京都・細見美術館 琳派のきらめき」

 2015/10/26(Mon)
 大分前の話になりますが、5/4(月・祝)に日本橋高島屋にて、「京都・細見美術館 琳派のきらめき-宗達・光琳・抱一・雪佳」を見てきました。

 細見さんのコレクションとのお付き合いはもう随分長く、以前「思い出の美術展(2)」でも触れましたが、1996年正月に同じく日本橋高島屋で開催された琳派展が最初の出会いでした。
 当時千尋は琳派どころか日本美術自体全くの初心者で、キャプションを見て「たらしこみって何?」等と思ったものです。大分後で知ったのですが、この時はまだ京都に美術館が開館する前で、あれからもう20年近くになるんだなあと、改めて感慨深いものがありました。以前このブログでも書きましたが、あの時はまだ酒井抱一の名前も知らず、おかげで出品作の記憶も殆どないのが今でもちょっと悔しいです…(苦笑)

 ともあれ、細見さんのコレクションは数年おきに全国を巡回していますが、琳派一本にテーマを絞った巡回展は久しぶりです。今回は特に、明治以降に活躍した江戸琳派の後継者たちがまとまって登場、初めて見る作品も多く印象的でした。鈴木其一以降は目立って飛び抜けた才能の人物は見られないかなと思いつつ、近世から近代へと移り変わる時代にも受け継がれていった琳派の底力のようなものも感じた内容でした。

 さて、細見さん所蔵の琳派作品は優品の多さでも評価が高いですが、中でも千尋が贔屓する数点について、この機会に改めて触れたいと思います。

1.酒井抱一「白蓮図」
「散り際の花弁を大きく広げた白蓮、下方には薄緑の蕾が頭を覗かせる。細い茎は外隈(そとくま)によって塗り残された素地(そじ)を活かして表され、危うい均衡を保って花や葉を支えている。37歳で出家し、大名家の一員から僧籍に入った抱一は、仏画も多く手掛けている。本図は、草花図というより鎮魂、再生を願う祈りの花といえよう」(キャブションより)

 どちらかと言えば地味な作品ながら、細見館長いわく段々人気が向上、今やすっかり美術館のスター作品としてお馴染みになった一幅。千尋もこの絵は個人的に抱一作品ベスト3の一つに数えている、大好きな作品です。
 琳派というよりはむしろ円山四条派風の気品高く楚々とした趣で、彩色もごくわずかな、殆ど水墨画に近い画風です。金銀をふんだんに使った華やかな琳派の世界とはまた違う味わいを湛えていて、向き合うたびにほっとするような、それでいてしんみりとした心持ちにもなる別格の絵ですね。

  白蓮図(酒井抱一)

2.鈴木其一「水辺家鴨図屏風」
 真面目な印象の其一作ではある意味ちょっと珍しい、よちよち歩きのアヒルの姿が何ともユーモラスな絵。アヒルのお尻がとにかく可愛い!(笑)
 ちなみに美術展に合わせて、高島屋の1階に何とこの絵をモチーフにしたラッピングカーが展示されていてびっくりしました。

2015細見琳派展-1
光琳流水と其一のアヒル



3.鈴木其一「白椿に楽茶碗花鋏図」
 実を言えば、千尋は其一の作風は時々ちょっと苦手なのですが、この絵はとても好きです。
 師匠抱一の影響を受けつつも、広々とした余白の中に置かれた白い椿の花と、対照的に黒い茶碗と鋏が、彼らしいシャープで端正なたたずまいを感じさせます。多分これから茶会でもあるのだろうという風情で、この絵自体が茶室の掛け物にぴったりですね。

4.神坂雪佳「金魚玉図」
 20年前の細見展で、千尋が最も鮮明に記憶している作品が、実はこの金魚です(笑)。
 何しろ見ての通りの強烈なインパクトで、初めて見たら誰もが思わず吹き出してしまいそうな、何とも言えないユニークな構図ですよね。ここしばらく機会を逸してご無沙汰していたので、久しぶりに見られてとても嬉しかったです。

2015細見琳派展-2
金魚は何と正面でした(笑)


 ともあれ、この秋はいよいよ本格的な琳派シーズン到来で、先週は念願の京都国立博物館展へも行ってきました。そして今週10/31(土)は、「美の巨人たち」にて2010年以来5年ぶりに、酒井抱一の「夏秋草図屏風」が久々の登場です! 実物はただ今京都へ出張中ですが、抱一ファンの皆様はぜひお見逃しなく!!

関連過去ログ:
 ・琳派400年(1) 箱根の琳派・岡田美術館展
 ・琳派400年(2) さえずる鳥たち・畠山コレクション「THE 琳派」
 ・琳派400年(3) こぼれる梅花・MOA美術館「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」
 ・琳派400年(4) 小品の魅力・根津美術館「燕子花と紅白梅 光琳デザインの秘密」

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青空という幻想 マグリット展

 2015/09/04(Fri)
 少し前の話になりますが、4月12日(日)に、国立新美術館にて開催の「マグリット展」(2015/3/25-6/29)へ行ってきました。

 マグリットは日本では割合定期的に回顧展が開催されており、直近では2002年(東京ではBunkamura開催)がありました。その後はやはりBunkamuraの「だまし絵展」等でちらほら作品を見ていたものの、大きな展覧会はしばらくご無沙汰していたことになります。
 というわけで、今年はBunkamuraから実に13年ぶりの大規模なマグリット展だけに大変楽しみで、早めの時期に駆けつけました。そしてブランクが長かったせいでしょうか、何だか見慣れない作品が随分多かったように感じて、妙に新鮮に感じたのがちょっとおかしかったです。

 ところでそもそもマグリットとの出会いは、中学校の美術の教科書で表紙に使われていた「大家族」が確か最初だったと記憶しています。
 どんよりと暗い一面の曇天に、翼を広げた鳥の形に青空が切り取られた有名な絵で、マグリットの名前を知らない人でも恐らくこの絵は見たことがあるでしょう。私も作者がマグリットだと知ったのはずっと後でしたが、とにかくいわく言いがたい、一種独特な印象で一際記憶に焼きついた作品でした。
 なおもう一点、「個人的な価値」も教科書に載っていたのを憶えています。こちらは青空を壁紙に描いた部屋の中に、ベッドと同じくらいの巨大な櫛やらコップやらがどんと置かれており、やはりいかにもマグリット的な奇抜さで印象に残っていました。

 そして、初めて本格的にマグリットの作品に触れることになったのが、約20年前に新宿三越美術館にて開催された「ルネ・マグリット展」(1994年)でした。
 この時も作品数100点を超える、初期の作品から晩年まで幅広く網羅した素晴らしい内容でした。最初に見たマグリット展がこれというのは、今にして思うと実に幸運な体験で、この時初めて「大家族」の実物を見て大変感激したのをよく憶えています。
 ちなみにこの「大家族」、1994年当時はベルギーの個人所蔵でしたが、この2年後に宇都宮美術館が約6億円で購入しました。当時はかなり話題になり、お値段がお値段だけに賛否両論あったようです。
 とはいえマグリットは日本でも人気の高い画家の一人ですし、しかも彼の代表作の一つとして名高い「大家族」ですから、これは嬉しかったですね。ヨーロッパの美術館所蔵ではなかなか見に行くこともできませんが、あの時は大好きなマグリットのさらに大好きな絵が日本の美術館に入ると聞いて大感激でした。

 そしてこの1994年の回顧展でもう一点、やはり一際強烈に記憶に残っているのが「ピレネーの城」でした。
「大家族」が意外に小ぶりな絵(100x81cm)なのに対し、「ピレネーの城」は200x130cmという大きさにまず驚きました。空中にぽっかりと浮かんだ卵型の岩という、いかにもマグリットらしいモチーフで、いわゆる「石の時代」の代表作としても有名な作品です。
「大家族」も一風変わった絵ではありますが、こちらは画面下に暗い海がわずかに描かれているのは同じながら、背景は白い雲が浮かぶ一面の青空です。そして海の上に聳え立つように巨大な岩が浮かび、さらにその上には古めかしい石の城があって、マグリットにしては珍しく「ピレネーの城」というタイトルが何となくしっくりくる絵なのですよね(何しろこの人のネーミングセンス?は大抵意味不明で、おかげでタイトルも憶えにくいのです)。
 もっともこの岩、本当に巨大なのかどうかは他に比較するものがないのでわかりませんし、恐らくマグリットもそれを意図して敢えてわからないように描いたのでしょう。いずれにしても、どこか騙し絵めいたマグリットの作品に共通する、何とも不思議で幻想的な世界が大好きな絵のひとつです。

 ところが残念なことに、その後この「ピレネーの城」に再会する機会はなかなか巡ってきませんでした。
 先述の2002年のマグリット展でも「大家族」「アルンハイムの領地 」「白紙委任状」等は出展されましたが、「ピレネーの城」は来てくれなかったのです。そもそもこの作品は何故かイスラエル美術館所蔵で(どうやら個人からの寄贈で入ったようです)、色々難しいことも多かったのでしょうか、随分長いことご無沙汰のままになっていました。
 そして今年、久々に国立新美術館でマグリット展が開催されると聞き、喜んで駆けつけたのですが、残念ながら今回も「ピレネーの城」はありませんでした。ところが、がっかりしていたら何と、7月からの京都市美術館展(2015/7/11-10/12)限定で「ピレネーの城」が出るというではありませんか! しかもばっちりポスターやチラシの絵柄まで「ピレネーの城」尽くしで、これは是非とも見に行かねば!と狂喜乱舞、8月22日(土)にはるばる京都まで行ってきました。


京都マグリット展2015



 そんなわけで、実に21年ぶりで再会した「ピレネーの城」はやはりとても大きく、一際存在感のある作品でした。年代順の展示だったために、最後の展示室まで行ってやっと出会えましたが、この20年間で何度か見ている「大家族」とはまた違った感慨があって嬉しかったです。

 ところで今回改めてまじまじと実物を眺めていて気付いたことですが、この「ピレネーの城」は恐らく画面左上に太陽がある昼間の絵なのでしょうね。というのも、岩の右下の方に影がついていて、はっきりと光線の方向がわかるのです。ちなみによく似た構図のもう一枚の絵「現実の感覚」(こちらは下が陸地)も同様で、雲がうっすらと茜色に染まっていることから一瞬夕暮れかなと思いますが、上空に浮かぶ月が三日月の逆なので多分明け方でしょう。
 また画面下の波が打ち寄せる海は青い空とは対照的に暗く、何となくこれは北の海なのかなという印象です。マグリットの故国ベルギーは英仏海峡に面していますから、あれもベルギーの海なのでしょうか。
 なお海といえば、「大家族」の海はよく見ると、真ん中あたりに鳥の形の青空の色が映っています。これは東京展でじっくり見ていた時に初めて気がついたことで、しかも波の描写がとてもリアルなのですよね。鳥の形の青空がどう考えてもありえないだけに、これもまた不思議でした。

 さらに「ピレネーの城」のすぐ隣にあった「ガラスの鍵」という作品も、確か今回初めて見るものでしたが、少し「ピレネーの城」に似た雰囲気の絵でした。
 こちらはアルプスを思わせる険しい山脈を描いており、尾根の上にやはり卵形の巨大(多分)な岩がでんと載っています。ただし全体にごく淡い青を基調として描かれているせいか、こちらも大きな絵でありながら「ピレネーの城」のように圧倒されるような迫力というか、重量感はあまりありません。手前に描かれた別の尾根は少し暗い色ながら、卵形の岩が載った奥の尾根と背景の晴れた青空が何とも澄んだ繊細な色合いで、マグリットの作品では珍しく?普通に「綺麗」な絵だな、と感じました(でもやっぱりマグリットですが)。

 ところで、マグリットの絵でよく描かれるモチーフのひとつに、「大家族」や「ピレネーの城」でもお馴染みの青空があります。中でもひとつ、今回出展の作品でまさに白い雲の浮かぶ青空のみを描いた絵がありますが、このタイトルが何故か「呪い」という凄いもので、やっぱり意味不明なのですよね。
 ただ、国立新美術館で配布されていたミニパンフレットの紹介にあったのですが、そもそも空というのは実際には存在しない(手に届かず触れることもできない)のに見えているという、考えてみれば不思議なものです。古代の人々は天空を巨大なドームのように考えていましたが、現代人とて頭では青空とはレイリー散乱により「青く見えている」だけに過ぎないとわかっていても、肉眼ではプラネタリウムのスクリーンを見るのと同様の感覚で空を見ているわけです。そういう意味では、「青空」もまたある種の錯覚と言えば言えるでしょう。


 ところで、これもマグリットがよく描くものとして、背後の風景と一続きの景色を描いたキャンバスの絵があります。「ユークリッドの散歩道」が特に有名で、今回出展の「美しい虜」もその一例ですね。この「美しい虜」ではキャンバスが屋外に置かれており、これだけならちょっと位置がずれれば絵もずれてしまうだろうな、くらいしか考えません。

 ところが、もう一つの「人間の条件」ではキャンバスがあるのは、室内の窓際です。
 そしてさらに「野の鍵」(または「田園の鍵」)になると、その窓ガラスが砕けて床に落ちており、しかもガラスの破片には割れた窓の向こうの風景そっくりの絵?が描かれています。

 こうなると、「人間の条件」で「窓の外の風景」だと思って見ていたものが、果たして本当にそうなのか?という疑惑も湧いてきます。いやそもそも、「野の鍵」で砕けたガラスの向こうに見えている(と見える)風景すら、もしかすると下に散らばる破片同様に、ガラスが割れたように描いただけの巧妙な騙し絵かもしれません。
 そして窓ガラスにしろキャンバスにしろ、騙し絵の向こうの「本物の風景」は私たちには隠れて見えません。ということは、「本物の風景」が騙し絵に描かれたのとそっくり同じ風景だという保証はどこにもない――それどころか、向こう側にはそもそも「風景」など存在しないかもしれないのです(!)。

 こんな風に考え始めると、マグリットの絵というのは一見単純そうでいて非常に奥の深い、哲学的ともいえる不思議な疑惑に満ちたミステリアスな世界です。かといってあまり考えすぎても混乱してしまいますが、一般的な意味でのわかりやすい「騙し絵(トロンプ・ルイユ)」ともまた異なり、当たり前と思っている日常の中に潜んでいる謎をこれほど魅惑的に描き出してくれることにかけては、やはりマグリット以上の画家はいないでしょう(文学作品ではM・エンデの『鏡のなかの鏡―迷宮』『自由の牢獄』が近いかもしれません)。そしてその謎にどこかぞくりとするような怖さというか不安があるのもまたマグリットならではで、そんなブラックジョークのような独特の味わいがまた大好きです。

参考図書:
思考の死角を視る―マグリットのモチーフによる変奏』(増成隆士、勁草書房、1983)
 ちょっと難解な内容ですが、マグリット好きには大変わくわくする面白い本です。古い本で絶版のため、興味がおありのかたはぜひ図書館で探してみてください。
1983年サントリー学芸賞受賞作


※著作権について
 1967年没のマグリットは、2015年現在、著作権法で定められた保護期間である没後50年に達していません。またベルギーは戦時加算によりさらに3910日間保護期間が切れないため、日本では50年+10年と約8ヶ月、マグリットの作品を自由にパブリックドメインとして使用することは著作権法上禁止されています(今後TPPで著作権保護期間が70年になれば、さらに20年延長される可能性もあります)。
 もっとも実際にはネット上に山ほど画像が溢れているのが現状で、親告罪のため訴えられない限りはグレーゾーン?ですが、厳密に言えば無許可の使用は違反となります。よって当ブログでも、展覧会の看板・ポスター等を撮影した写真を除いて、原則として保護期間内の作品画像は掲載いたしませんので、ご了承ください。(もし誤って保護期間中の作品を掲載していた場合は、お手数ですが一言ご連絡いただければ大変助かります)

参考リンク:Image Archives(DNPアートコミュニケーションズ)
http://search.dnparchives.com/
※「ピレネーの城」「田園の鍵」「大家族」「呪い」「ユークリッドの散歩道」の画像を閲覧できます。

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星を見る人 ルーヴル美術館展とフェルメール

 2015/06/16(Tue)
 またちょっと話は遡りますが、2/22(日)に国立新美術館の「ルーヴル美術館展 日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」 (2015/2/21-6/1)へ行ってきました。
 今回のお目当てはもちろん、日本初公開のフェルメール作「天文学者」です。「地理学者」(ドイツ・シュテーデル美術館所蔵)は既に何度か見ていますが、対と言われるこの「天文学者」はなかなか来日してくれず、今回ようやく念願叶って大感激でした。 何でもこの絵はルーヴル美術館にとっても門外不出に近い秘蔵の1枚だそうで、よくぞ3ヶ月も貸し出してくれたものです。ありがとうルーヴル美術館!

 今回はテーマがヨーロッパの風俗画ということで、大作もたくさんありましたが、小さな絵画が予想以上に多かったです。しかもこれがブリューゲルだったりティツィアーノだったりレンブラントだったりヴァトーだったりと、うっかり通り過ぎてしまいそうな小品にも有名どころがぞろぞろなのがまた圧巻。さすがはルーヴル美術館、おかげで何度絵の前で「えっ!?」と驚きに足を止めたかわからないくらいでした。中でもブーシェの「オダリスク」は画集等ではお馴染みでしたが、多分実物を見るのは初めてで、大好きな画家の一人だけに嬉しかったです。

 さて、問題の「天文学者」ですが、これも実物は思っていたほどは大きくない作品でした。
 今回は会期始めの夕方を狙ったのが大正解で、絵の周りもそれほど混雑はなく、落ち着いた状況でゆっくり絵を堪能することができました。これが「風俗画」なのか?と言われるとちょっと違うような気もするのですが、とはいえ日本の着物めいた青いガウンと、机の端からこぼれるような豪奢な織物は、確かに大航海時代のオランダならではのものと言えます。また当時の航海には当然ながら地理学・天文学の知識も重要でしたから、そんなところも象徴的な作品なのですね。
 余談ですが千尋自身、元々天文好きということもあり、また天文学を題材にした絵は珍しいだけに、この「天文学者」は他のフェルメールともまたちょっと違う独特の思い入れがあります。今回のルーヴル展でも天文関連のグッズがたくさんあり、中でも古風な天球儀にはとりわけ目を惹かれましたが、さすがにちょっと高額で手が出ませんでした…残念。

 ともあれ、「地理学者」によく似た窓辺の室内の光景ながら、こちらに横顔を見せる「天文学者」は窓の外の景色ではなく机の上の天球儀をじっと覗き込むように見つめています。フェルメールの絵の登場人物は見る者とはまったく別の方へ視線を向けている例も多く、この絵もそのひとつですが、あるいはこの天文学者はフェルメールの少年時代?に亡くなったガリレオ・ガリレイのように、いまだ解き明かされていない宇宙の神秘に思いを馳せていたのでしょうか。手元の本には「天文学者は真実を追究する」と書かれていることもわかっているそうで、一見わかりやすそうに見えるフェルメールの絵の中ではやや難解な印象も受ける作品でした。

 ところで実を言えば、千尋はフェルメールなら何でも好きで全部見たい!というほど熱心なファンではなく、むしろ好みの作品はかなり限られている方です。その中でも特に好きなのがこの「天文学者」と「地理学者」の一対で、2000年の「フェルメールとその時代展」で初めて「地理学者」に会った時から、いつか「天文学者」にも会いたいとずっと思っていました。
 なおこの2枚は今でこそフランスとドイツに離れ離れですが、元々同じ人物が所有していたそうです。先日の光琳の屏風のように一度でいいからこの2枚が並んだところを見てみたいものですが、難しいでしょうねえ…

 さてこのルーヴル展、本日6月16日から9月27日まで、今度は京都市美術館で開催中です。関西の皆様はもちろん、期間中に京都へ旅行される方もぜひお忘れなく!

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